パンダ不在、長期化の恐れ=中国の対日「外交カード」に

 【北京時事】上野動物園(東京都台東区)が飼育しているジャイアントパンダ2頭の中国返還が発表され、来年1月には日本国内からパンダが消える。高市早苗首相の台湾有事発言をきっかけに日中関係は悪化しており、中国からの新規貸与は当面困難な情勢。パンダの不在は長期化する恐れがある。
 「主管部門に聞いてほしい」。中国外務省の郭嘉昆副報道局長は今月15日、パンダの返還に関する質問に対し、こう述べるにとどめた。4月や6月の記者会見では日中共同でのパンダ保護事業を評価し、貸与に前向きと受け取れる発言をしていただけに、後退ぶりは明らかだ。
 中国で「国宝」と呼ばれるパンダは、相手国との関係強化に利用される外交カードでもあり、首脳往来と連動して貸与が決まる例が目立つ。
 中国メディアによると、現在パンダは世界約20カ国で飼育されている。直近では今月、フランスのマクロン大統領の訪中に合わせ、2027年に2頭を貸し出すと発表した。米国では近年パンダの返還が続き、ゼロになる可能性も取り沙汰されたが、習近平国家主席が23年秋の訪米時に保護協力の継続を表明。翌年、ワシントンなどに計4頭が到着した。
 中国当局は日本への今後の貸与方針について明確に言及していないが、官製メディアは専門家らの否定的な見解を伝えている。
 報道によると、中国国際問題研究院アジア太平洋研究所の項昊宇・特別招聘(しょうへい)研究員は、日本がパンダを失うのは「高市首相の責任だ」と主張。両国間に「健全な政治的雰囲気」が形成されるまで貸与は困難との見通しを示した。遼寧大日本研究センターの陳洋客員教授は「両国間の緊張が続けば、新たな貸与はないだろう」と指摘している。
 中国が日本に初めてパンダを贈ったのは1972年、日本が台湾と断交し、中華人民共和国を「中国唯一の合法政府」と認めた日中国交正常化が契機だ。日中は現在、まさにその台湾問題を巡り関係がこじれている状態。首脳同士の対話を通じて関係修復に向かわない限り、中国側が貸与に踏み切る可能性は低いとみられる。 
〔写真説明〕中国への返還が発表された上野動物園のジャイアントパンダ「レイレイ」=16日、東京都台東区