「過労死なくならない」=高橋まつりさん母、悲痛な思い―電通社員自殺、25日で10年

 広告大手電通の新入社員だった高橋まつりさん=当時(24)=が過労自殺してから25日で10年となるのを前に、母幸美さん(62)が時事通信の取材に応じ「『まつりのおかげで過労死は日本からなくなったよ』と伝えたいのに、まだ伝えられない」と胸の内を語った。政府が労働時間の規制緩和を検討していることに懸念を示し、過労死のない社会を求めた。
 まつりさんが亡くなった翌年の2016年、幸美さんは記者会見を開き、死亡の経緯を公表。その後、学校や労働組合など幅広い場で過労死防止を呼び掛けてきた。「本当はつらいことを思い出すからやりたくない」というが、「これ以上、私や娘のような思いをする人を出したくない」と自身を奮い立たせてきた。
 幸美さんら遺族の活動もあり、長時間労働への問題意識は高まった。18年6月には「働き方改革」関連法が成立し、罰則付きで残業時間の上限規制が設けられた。
 しかし、今年10月に就任した高市早苗首相は、従業者の選択を前提とした労働時間の規制緩和を検討するよう指示し、厚生労働省の審議会で議論されている。
 幸美さんは「働き方改革を後退させるようなことはしないでほしい」と強調。「自分が選んだ働き方でも長時間だったり、ハラスメントがあったりすれば、知らないうちに心や体を病み、急に亡くなることもある」と警鐘を鳴らす。
 まつりさんについて「すごく頑張り屋で誰にでも好かれるような子だった」と話す幸美さん。一緒にタイ旅行をしたり、山登りに行ったりと楽しい思い出がたくさんあるという。
 娘を失ってからの10年間を振り返り、「朝起きて『まつりちゃん、おはよう』と声を掛けるけれど、いないんだなと。そう思いながら10年がたってしまった」と言葉を詰まらせた。
 働く人に向けて、「今いる空間を手放すのは勇気が必要だと思うが、何よりも自分の体と心を守ってほしい」と強く訴えた。 
〔写真説明〕過労自殺した高橋まつりさんの遺影を前に、取材に応じる母幸美さん=5日、東京都中央区
〔写真説明〕過労自殺した高橋まつりさんの遺影と誕生日にもらった手紙を前に、思い出を語る母幸美さん=5日、東京都中央区