検察側、安倍氏銃撃の詳細立証=悪質性強調、「陰謀論」否定も

 安倍晋三元首相銃撃事件の公判で、検察側は山上徹也被告(45)の手製銃による銃撃を詳細に立証した。事件の悪質性を強調するとともに、インターネット上などで流布される「犯行はスナイパー(狙撃手)によるもの」との言説を否定する意図もあったとみられる。被告自身も法廷で「陰謀論は自分に原因がある」と謝罪する場面があった。
 検察側立証によると、被告が銃撃に用いた2銃身パイプ銃は、直径約9ミリの弾丸6個を一度に発射できるものだった。安倍氏に向けて2回発射し、1回目は外れたが、2回目に命中し、致命傷となった。
 司法解剖を担当した医師は、安倍氏の左上腕と首から二つの弾丸が体内に入ったと証言。左上腕から入った弾丸が鎖骨下の大動脈を傷つけ、「ほぼ即死に近い状態だった」とした。首から入った弾丸は致命傷とはならず、右胸を通って右上腕骨にめりこんだ状態で見つかったという。
 スナイパー説は、被告がほぼ水平方向から銃撃しているのにもかかわらず、首から入った弾丸が斜め下方向の右上腕で見つかったことを根拠の一つとする。解剖医は「マイクで右腕を上げる姿勢であれば、不思議はない」と証言し、弾丸の進行方向に矛盾はないとした。
 安倍氏の左上腕から入った弾丸が見つかっていないことも根拠とされてきたが、解剖医は「救命措置で血液と一緒に吸い出した」との見解を示した。
 公判には現場を実況見分した警察官も出廷。弾丸が飛んだ方向を立面図で示し、被告と安倍氏を直線で結んだ場所の先に置かれていた街宣車などから弾丸が見つかったと証言した。弾丸は安倍氏が着けていた議員バッジを壊したほか、安倍氏の近くにいた自民党関係者の頭髪をかすめた可能性も指摘した。
 18日の論告でも、被告はネットなどで武器や火薬の製造方法を調べたとし、「特段の資格や知識がなくても容易に製造できることを世に知らしめた」と批判した。
 奈良地検幹部は「陰謀論を特別に意識したわけではない」とした上で、「丁寧な立証を行ったことで、第三者犯行説はそもそも論じる余地がないのではないか」と話している。