安倍晋三元首相銃撃事件の公判では、山上徹也被告(45)が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みを募らせ、韓鶴子総裁ら幹部の襲撃を計画した一方、事件直前になって標的を安倍氏に変えた経緯が被告の口から語られた。
被告人質問によると、母親の信仰に反対し続けた兄が2015年に自殺したことをきっかけに、教団幹部への襲撃を決意。「(教団に)一矢報いる、打撃を与えるのが自分の人生の意味だと思った」。18年と19年にナイフや火炎瓶で襲撃を図ったが失敗に終わり、手製銃の作製を始めた。
被告が安倍氏と教団との関係を知ったのは06年ごろ。官房長官だった安倍氏が教団関連団体に祝電を送ったことについて、教団関係者から「(安倍氏は)われわれの味方だ」と聞かされた。
カルト問題を扱うインターネットのサイトなどを閲覧し、12年に始まった第2次安倍政権は「教団との関係が深まっている」と感じた。21年9月、安倍氏が「韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」と発言したビデオメッセージを視聴。「(教団が)社会的にどんどん認められていく、問題のないものとして認知される」と「絶望と危機感」を抱いた。
直近の職場を退職した22年6月ごろ、手製銃の材料費などで借金が200万円以上かさみ、経済的に追い詰められていたが、教団幹部の襲撃は実現しなかった。「(手製銃を)使わなければ、何のために時間と労力とお金をかけて作ったのか」とも考え、同年7月に入り、「本筋ではない」と思いながらも、参院選で全国を遊説していた安倍氏への襲撃を決意したという。
7月8日、近鉄大和西大寺駅で演説中の安倍氏の背後にいた警備員が移動し、「偶然とは思えない何か」を感じた被告は、上半身に向けて2回、手製銃を発射した。安倍氏が倒れる動画を公判で初めて目にし、「リアリティーを持った」という被告は、安倍氏を狙ったことは「間違いだった」と悔いるように語った。