暫定政府、安定実現に腐心=シリア統一の道半ば―アサド政権崩壊1年

 【イスタンブール時事】シリアのアサド独裁政権崩壊から8日で1年。暫定政府はこの1年間、国内の安定に腐心しつつ、多様な宗教・宗派間の対立に翻弄(ほんろう)されてきた。クルド勢力が実効支配を続ける北東部や、暫定政府に不満を抱く旧政権支持者らが多い北西部など、不安定化の火種は各地に残る。国土統一は道半ばで、シャラア暫定大統領の前途は課題山積だ。
 昨年11月下旬、アサド政権の崩壊に至るシャラア氏主導の大規模攻勢が本格化した。その1年後、シリア各地では市民が街頭に繰り出し、独裁と圧政からの解放を祝福している。
 首都ダマスカスの公務員アハマド・イドリスさん(47)は電話取材に「安全も、表現の自由も手に入れた。国民の生活向上のため政府が最善を尽くしてくれると信じている」と喜びをあらわにした。
 こうした支持や期待は、暫定政府の主体であるイスラム教スンニ派の住民に多い。一方、旧政権下で優遇された少数派アラウィ派には政府への不信感が募る。AFP通信によると、11月には北西部タルトスやジャブラなどで暫定政府発足後では最大規模のデモが行われた。参加者はアラウィ派を狙う襲撃増加に抗議し、少数派に配慮した「連邦制」の導入などを求めている。
 シャラア氏は「社会と宗派の多様性はシリアを豊かにする」と強調。連邦制は否定しつつ、「国家は国民の正当な要求に耳を傾けて議論する用意がある」と融和の重要性を訴える。しかし、宗派間の根深い反目が対話を妨げ、3月は北西部で治安部隊と旧政権残党、7月は南部で少数派ドルーズ派とスンニ派ベドウィン(遊牧民)が衝突。いずれも1000人を超える死者が出た。
 南部や北東部には、暫定政府の権限が及ばない地域が広がる。北東部を統治するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)は3月、国家への合流に同意し、年末までに暫定政府側との停戦を実現させ、クルド人の権利向上を行う段取りだった。しかし、衝突は現在も続き、統合は進んでいない。
 SDF支配下の北東部カミシュリの技師アナスさん(37)は電話取材で「暫定政府には国家を束ねる経験が足りない」と批判。「経済は予想より良くなっていない。最も強い者が得をするだけで、少数派にとって期待外れだ」と失意を吐露した。 
〔写真説明〕6日、シリアの首都ダマスカスで、展示された兵器の前で自撮りする市民ら(EPA時事)