【北京時事】高市早苗首相の台湾有事に関する発言を受けて日中関係が緊張する中、中国で日本の音楽や映画をはじめとする娯楽産業への圧力が強まっている。ただ、中国当局の対応には国内でも一部で不満の声が上がる。強気の姿勢を崩さない習近平政権だが、規制のさじ加減に苦慮している側面もあるようだ。
特に物議を醸したのは、上海で11月28日に起きた2人の日本人歌手を巡る出来事だ。この日、開催を翌日に控えた浜崎あゆみさんのコンサートが急きょ中止に。日本のアニメ関連イベントでは、大槻マキさんの歌唱中に公演が中断された。曲の途中で照明と音が落ち、驚いた顔の大槻さんがスタッフに伴われて退場する場面がネットで拡散し、衝撃を呼んだ。
中国のSNSは厳格な監視下にあるため、当局批判につながる投稿はまれだ。しかし、上海での2件を巡っては「歌手に対して失礼」「恥ずべきやり方だ」といった声が上がったほか、公演中止で損失を被るのは中国側の主催者や観客だとの指摘も出た。
当局は批判の封じ込めに躍起だ。著名論客の胡錫進氏は当初SNSで、大槻さんの舞台の中断は「やり過ぎだ」と苦言を呈していたが、投稿は後に削除され、浜崎さんの公演を中止させた当局への「支持」を強調する内容に変わった。一方で、日本との「闘争の長期化」を見据え、対日制裁が中国側に負担をもたらすものであってはならないともつづった。
浜崎さんに関しては、中止決定後に「無観客公演」を敢行したとの情報がSNSや報道を通じて広まった。浜崎さん自身も、無人の会場でのパフォーマンスの様子をインスタグラムなどで紹介した。ところが、中国メディアはその後、実際はただのリハーサルだったと報道。浜崎さんに同情や称賛が集まらないよう、火消しを図ったもようだ。
日本のエンタメへの対応は現時点ではちぐはぐだ。中国で11月中旬に公開されたアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」は、早期打ち切りが懸念されたものの、いまだ上映が続いている。各種の公演も、地方によっては予定通りに開催できた例がある。当局側が統一的な指針を打ち出せていないことに加え、国民感情の過度な悪化を警戒している可能性もある。
〔写真説明〕歌手の浜崎あゆみさんが公式インスタグラムで公開した中国・上海での「無観客公演」