「関西人がサンマを食べられるのはこのフェリーのおかげ!?」 新造船デビュー「日本海の最長航路」の“強み”とは?

新日本海フェリーが舞鶴―小樽航路に21年ぶりとなる新造船「けやき」を投入しました。個人旅行のニーズに応えた客室や、物流の「2024年問題」に対応する設備を備え、大きな期待が寄せられています。

「個人旅行」と「物流」2つのニーズに応える

「舞鶴港が関西圏唯一の日本海側拠点港として重要な役割を果たせているのは、新日本海フェリーの支えがあってこそだ」

 SHKライングループ新日本海フェリーが舞鶴(京都府舞鶴市)―小樽(北海道小樽市)航路に投入した新造船「けやき」(1万4300総トン)の就航記念セレモニーで京都府の武田一寧副知事がこう述べました。新造船の就航後、注目を集める同航路ですが、その“強み”はどのような点にあるのでしょうか。

「けやき」は2025年11月14日に小樽発舞鶴行でデビューしました。日本海の旅客航路では最長となる1061kmを運航する舞鶴―小樽航路では21年ぶりとなる期待の新鋭船とあって注目度は高く、初便から多くの人が乗船し船旅を楽しんでいます。

 これまで同航路に就航していた「はまなす」(1万6897総トン)に比べ、「けやき」はダウンサイジングを図りつつ、個人旅行の増加とプライベート重視という近年のニーズを踏まえた客室を備えます。旅客定員286人のうち、ツーリストAの44人以外は全て個室で、ペットと一緒に乗船できるウィズペットルームも設けられました。

 新日本海フェリーの入谷泰生社長は「旅行の形態が長年の間に変わり、従来のような大型の団体旅行客ではなく、個人旅行や少人数のグループ旅行に移ってきている。長時間の航海なので昔のような部屋では満足されない。そうした需要にこたえるため、客室をほとんど個室にした」と説明します。

 さらに「けやき」ではトラックの運転手が泊まる個室の「ドライバールーム」を30人分用意しました。一般の乗船客が使うレストランとは別に、定食などを提供するドライバーズレストランや専用の浴室が設置されており、リラックスできる環境を整えています。

「どの航路もそうだが、ドライバー向けの個室や船内の快適性も必要になってくる。『けやき』ではレストランもかなり大きめにスペースをとり、飽きの来ないメニューを取り揃えた。就寝スペースはテレビモニターを設置するなど快適に過ごしていただけるようにしている」(入谷社長)

関西で「サンマ」を食べたら思い出せ!?

 ドライバーの時間外労働の上限規制などで人手不足と物流の停滞が懸念されている「2024年問題」の対策や、二酸化炭素(CO2)排出量の削減といった環境負荷の低減が求められる中、新日本海フェリーでは海上輸送へのモーダルシフトのメリットを積極的にアピールしています。

 トラックでフェリーを利用した場合、乗船時間がドライバーの休息時間となるため、約21時間かけて舞鶴と小樽を結ぶ新日本海フェリーの航路は十分な休息を確保しながら移動できる最適な選択肢と言えるでしょう。

 入谷社長は「舞鶴―小樽航路は長距離ということもあって、かなり無人車の航運送割合が多い。ざっくりとしたデータにはなるが、だいたい80%から85%ぐらいが無人車やトラックといった貨物で占められている」と述べ、「『2024年問題』もそうだが、全体的にドライバーが高齢化している中、無人化の傾向は進むのではないか」と今後の見通しを示しました。

 新日本海フェリーは、運航しているフェリーの高速性を生かし、航空便と同じリードタイムでの大量輸送ができることをセールスポイントとしています。同社ではグループのマリネックスが陸送部門を手掛けており、全国の拠点に配備されたトレーラーと各フェリー航路を組み合わせた海陸一貫輸送を行っています。

「従来のユーザーも自社でクルマを動かさなくても、マリネックスをご要望いただければ、ドアツードアのサービスを提供することができる」(入谷社長)

 これまで舞鶴―小樽航路に就航していた「はまなす」が全長224.8mで航海速力が30.5ノット(56.5km/h)だったのに対して、新造船である「けやき」は全長199mで航海速力は28.3ノット(52.4km/h)と経済性を重視したスペックになりました。一方でトラックの積載台数は150台を確保するともに、運航ダイヤもこれまでと変わりません。

 舞鶴市の鴨田秋津市長は「今から55年前、日本海側で初めて長距離フェリーとして就航したのが舞鶴―小樽航路だ」と振り返り、「私たち関西人が当たり前のように生乳を飲め、そして当たり前のように魚屋さんやスーパーで生のサンマが買えるのも、実は新日本海フェリーのおかげであり、これまで地域全体の発展に多大な尽力を賜ってきた」と話しました。

 また、武田副知事は2番船「はまなす」の建造が進んでいることに言及。「新日本海フェリーで取り扱われる貨物量は、京都・舞鶴港全体の貨物量の半数を占めており、舞鶴―小樽航路はまさに舞鶴港の基幹航路となっている。同航路に積極的な投資を進めていることを大変心強く感じている」と話します。

 そのうえで「京都府としても、地域観光への推進や、荷主へのセールス活動、ニーズに応じた港湾整備を通じてより一層、京都・舞鶴港の振興に取り組んでいきたい」と強調しました。

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