2025年11月18日にアメリカの独立系シンクタンクである米中経済安全保障委員会(USCC)が、中国とフランス製「ラファール」戦闘機に関するレポートを公表して話題となっています。
仏製戦闘機に対する偽情報の拡散
2025年11月18日にアメリカの独立系シンクタンクである米中経済安全保障委員会(USCC)が、中国とフランス製「ラファール」戦闘機に関するレポートを公表して話題となっています。その報告によれば、中国がSNSにおいて「ラファール」のネガティブ・キャンペーンを展開し、自国製戦闘機の輸出が有利になるように働きかけたというのです。
事の発端は、2025年5月7日にインドとパキスタン間で起きた武力衝突でした。
両国が領有権で争うカシミール地方において、インド空軍とパキスタン空軍の戦闘機が多数参加する大規模な空中戦が勃発し、戦闘中にインド側のフランス製「ラファール」戦闘機が、パキスタン空軍の中国製J-10CE戦闘機に撃墜したとする情報が一部で流されました。これを裏付けるように、戦闘終結後に「ラファール」戦闘機の残骸らしき画像がSNSで拡散され、フランス製戦闘機が中国製戦闘機に撃墜されたというセンセーショナル話題が世界を駆け巡りました。
パキスタンとインドからの公式発表はありませんが、イギリスのロイター通信は匿名のアメリカ当局者の話として、今回の戦闘でインド空軍の「ラファール」1機が撃墜された可能性があると報じています。
しかし、その時に拡散されたラファールの残骸とされる画像は偽物であり、AIによって生成された画像、別機種残骸、ゲーム画面を不正に流用したものであり、中国側の関与が強く疑われるネットワークによって、「ラファール」の被害を誇張する目的で拡散された偽情報だったとUSCCは分析しています。
実はこの件に関しては、以前からフランスの情報局は中国から意図的にネガティブな情報が流されていると主張し、これを「攻撃」の一環であると断言。軍事省が「今回の攻撃は、戦闘機だけでなく、防衛パートナーとしてのフランスの信頼性を損なおうとしたのだ」と不快感を露わにしたコメントを出したこともあります。
仏製戦闘機の悪評は中国の利?
前述の通り、この中国による「ラファール」の偽情報工作はフランス情報局の調査によって判明したようですが、具体的にどのような機関が偽情報工作を行なったかは不明です。しかし、その理由は明確に指摘されており、中国が自国製戦闘機の海外輸出のために利用するためだったといいます。
今回の戦闘ではパキスタン空軍はJ-10CE以外にも、HQ-9地対空ミサイルやPL-15空対空ミサイルなどの中国兵器を投入しており、USCCのレポートでは「中国の近代的兵器システムが実戦において初めて使用された事例であり、まさに現実世界でのフィールド実験となった」と指摘。その渦中で起きたインドの「ラファール」の撃墜という結果は、これら兵器の輸出においては格好の宣伝材料だったのです。
レポートによると、戦闘終結後の数週間、中国の各国の大使館は兵器輸出の拡大を狙って活動をおこない、その宣伝材料として「ラファール」撃墜を利用したそうです。「インド軍のラファール戦闘機が撃墜されたとされる事案は、中国大使館による防衛装備販売活動における重要なセールスポイントとして利用された」と記されています。
また、中国製装備品のアピールだけでなく、ラファールの導入を決めていたインドネシアに対しては、その導入を中止するような働きかけまであったと噂されています。
兵器のセールスは経済的な理由だけではない
競合製品を否定・批判するネガティブ・キャンペーンは民間市場でもたびたび使われており、その手法自体はマーケティングのひとつの方法だといえます。しかし、国家間取引の兵器産業において、偽情報工作まで行なった事例がこうして政府関係の機関から指摘されるのは珍しいケースだといえるでしょう。
中国が手段を問わずにここまで自国製兵器の輸出に力を入れる理由は、単純に自国防衛産業の利益だけが目的ではありません。兵器の輸出は、商業製品とちがって一度限りの取引で終わるものではなく、継続的な支援のためにその国と軍事的・政治的な関係を持つことにも繋がります。つまり、兵器の輸出は国際政治や外交政策において重要な手札にもなりえるものなのです。
今回のインド・パキスタン間の武力衝突では、両国政府が公式な戦果や被害発表をしておらず、「ラファール」の撃墜も断片的な情報から推測された事象でしかありません。しかし、そんな不確定な情報であっても、意図的な情報操作によって「物語化」され、それが兵器輸出の宣伝材料として積極的に利用されていったようです。