タイの首都バンコク近郊で開催された防衛展示会で、タイ空軍が次期戦闘機として採用を決定した「グリペンE」の実大模型が展示されました。F-16との争いを制した同機ですが、その後も“採用争い”が繰り広げられそうです。
F-16敗北で明暗くっきり、次期戦闘機は「グリペンE/F」に
スウェーデンの防衛大手サーブが、2025年11月10日から14日までの4日間、タイの首都バンコク近郊で開催された防衛・セキュリティ展示会「ディフェンス&セキュリティ2025」に、タイ空軍が導入を決定したJAS39E「グリペンE」戦闘機の実大モックアップを出展。会場では新しい戦闘機を一目見ようと、人だかりができていました。
グリペンEは、現在タイ空軍が運用している「グリペンC」の発展改良型です。グリペンEとその複座型でタイ空軍も採用した「グリペンF」の外観は、グリペンCと複座型の「グリペンD」の外観と大差無く見えるのですが、全長はJAS39の14.9mから15.2mへ、全幅も約20cmそれぞれ拡大されています。機体の拡大によって生じたスペースには燃料タンクを増設して、航続距離の延伸と、兵装搭載量の増加を図っています。
従来機のグリペンC/Dはアメリカ海軍などが採用したF/A-18「ホーネット」と同じ「F404」エンジンを採用していますが、グリペンE/FはF/A-18E/F「スーパーホーネット」と同じ、F404よりもパワーの大きな「F414」エンジンを採用しています。軽量な機体にF414を組み合わせたことで、グリペンE/FはF-22などと同様、アフターバーナーを使用することなく超音速で飛行する「スーパークルーズ」能力を備えています。
またグリペンE/Fは広範囲の索敵と照準が可能なAESAレーダーが搭載されているほか、レーダーやIRST(赤外線捜索追尾装置)が収集した情報を融合し、コンピュータが自動的に整理してパイロットに表示する「データフュージョン」という能力も備えます。これは現時点で自由主義諸国が開発した戦闘機の中では、F-35とグリペンE/Fだけが持つ能力です。
タイ空軍は2024年8月に、現在第102飛行隊で運用されている、老朽化したF-16A/Bの後継機としてグリペンE/F 12機の採用を決定しています。
F-16A/Bの後継機の座は、グリペンE/Fと、ロッキードマーティンのF-16Vの一騎打ちで争われました。タイは当初、F-35Aの導入を希望していたのですが、アメリカ政府が容認しなかったことからロッキードマーティンはF-16Vを提案して、敗北しました。
ディフェンス&セキュリティ2025会場のグリペンEの実大モックアップは、先進的なコックピットの内部が見学できることもあって、終日長蛇の列が出来ていました。これに対してロッキードマーティンの展示ブースは閑古鳥が鳴いている状態で、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は「勝敗は兵家の常」(勝つこともあれば負けることもある)という中国の故事が思い浮かんでしまいました。
この先も「激しい採用争い」勃発か
タイ空軍は2025年11月現在、グリペンC/DとF-16A/Bのほか、F-5E/Fに大幅な近代化改修を加えたF-5TH、ダッソー/ドルニエ「アルファジェット」、韓国から導入したT-50 TH、合計5種類のジェット戦闘/攻撃機を運用しています。
これらのうちF-5THとアルファジェットは1970年代、F-16A/Bも1980年代に導入されていますので、前者に関しては2031会計年度、後者のうち第403飛行隊で運用されている機体に関しては2035会計年度に、後継機の導入が計画されています。
グリペンE/Fの調達予定機数は12機「以上」ということになっていますので、当然サーブはグリペンE/Fの追加調達を狙っていると思いますし、ロッキードマーティンもF-16Vで「リベンジ」を図るものと思われますが、両社には強力なライバルが出現しています。それは韓国と中国です。
韓国の航空機メーカーKAI(Korea Aerospace Industries)はディフェンス&セキュリティ2025に FA-50軽戦闘機と、開発を進めているKF-21「ボラメ」の模型を出展しています。
前に述べたようにタイ空軍はT-50 THを運用していますので、同機の戦闘攻撃機としての能力をさらに高めたFA-50は、タイ空軍にとって使いやすいはずです。その能力はアルファジェットとF-5THを凌駕していますし、KAIはおそらく軽戦闘機として初めて、敵の防空網制圧も行える無人航空機との協働運用コンセプト「SUCA」を打ち出しているので、この点も有利な要素となるかもしれません。
2035会計年度に予定されているF-16A/Bの後継機調達計画は、「第5世代戦闘機」を導入するという断り書きが付けられています。グリペンE/FとF-16Vは第5世代戦闘機ではありませんし、現時点でアメリカは第5世代機であるF-35のタイへの輸出を容認していません。ロシアも第5世代戦闘機のSu-57の輸出を行っていますが、タイはロシアから戦闘機を導入したことはありませんので、Su-57が候補になる可能性は低いと考えられます。
一方、中国の国有航空機メーカーである中国航空工業集団有限公司は、J-35戦闘機の派生型で、輸出可能な第5世代戦闘機「FC-31」の模型をディフェンス&セキュリティ2025で展示していました。タイは中国から戦車や潜水艦を導入するなど、密接な防衛協力関係にありますので、現時点ではFC-31が最有力候補になるものと思われます。
ただ、現状では「第4.5世代+」戦闘機に分類されているKF-21にも、将来限りなく第5世代戦闘機に近いレベルにまで能力を引き上げる計画がありますので、2035会計年度に行われるタイの新戦闘機導入計画は、FC-31とKF-21を軸に争われるのではないかと考えられます。
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