韓国の航空機メーカーKAIが、新型輸送機「NGTA」のコンセプト案を発表しました。しかし、同国はブラジル製KC-390輸送機の導入を決めたはず。開発するメリットはあるのでしょうか。
外国製輸送機買うんじゃないの?
2025年10月下旬にソウルで開催された防衛装備品関連の展示会「ソウル ADEX 2025」において、韓国の航空機メーカーKAI(韓国航空宇宙産業)が新型輸送機「NGTA(次世代輸送機)」のコンセプト案を展示していました。
それは15分の1スケール模型ですが、よくできており「NGTA」の構造を細かく見ることができました。機体はターボファンエンジンを2基搭載する双発構造で、主翼は胴体上部に付いた高翼配置、尾翼は上部に水平尾翼が付いたT字型となっています。
一見すると、日本が開発した航空自衛隊向けのC-2輸送機に似ていますが、T字型の尾翼や胴体下部のバルジなどは他の輸送機などでも見られる特徴であり、輸送機として理想形を追求すると、その外見に類似性が生まれるのは当然のことなのかもしれません。
想定されているスペックは、全長40.3m、全幅41.1m、全高13.5mで機体サイズはC-2輸送機よりも少し小さいくらいです。
輸送機の性能の基準となる最大離陸重量は92tで、そのうち貨物積載重量は30t。貨物は機体後部のランプ式ドアから積み込み、車両であれば自走で内部に入ることができます。
「NGTA」は、かつて「MC-X」の名称で呼ばれていたもので、韓国空軍が運用する戦術輸送機C-130H「ハーキュリーズ」の更新用となるべく研究・開発が進められていました。しかし、韓国の装備品導入を決める韓国防衛事業庁は2024年12月に韓国空軍向け新型軍用輸送機の公開入札を行い、これについてはブラジルのエンブラエル社が開発したKC-390「ミレニアム」に決まっています。
外国メーカーが落札したことによって、MC-Xは韓国空軍という顧客を失った結果、その開発も終わったかのように思えました。しかし、プロジェクトは継続されており、その名称も「NGTA」に改められたことが今回の取材でわかりました。
開発は実現するのか? その勝算を聞いてみた
輸送機の新規開発には膨大な手間暇と開発費が必要であり、「NGTA」も現時点ではKAIの社内プロジェクトという位置づけです。そのため、現時点では設計前の構想段階にすぎず、試作機を含む実機が製作される予定はまだありません。しかし、KAIの担当者は本機のプロジェクトに自信を見せます。
勝算のひとつは、韓国空軍が導入するKC-390が3機と少なく、今後のC-130H更新需要がまだ存在するからだといいます。「韓国空軍には古いC-130輸送機がいまだ多数あり、2040年以降にはそれらの更新が必要になります。C-130のすべてがKC-390で置き換えられるワケではありません」(KAI担当者)。
また、本機は韓国空軍だけでなく、海外への輸出も目指しています。軍用輸送機のベストセラーであるC-130輸送機はこれまでに2000機以上が生産され、現在でも世界各国で運用されています。そしてその多くが韓国空軍と同様に老朽化が進んでおり、これら機体の更新需要は500機以上あると言われています。
もっとも、軍用輸送機の世界市場では、すでに多くの競合機が存在しています。韓国が導入を決めたエンブラエルのKC-390はすでに10か国以上で配備・採用決定がなされており、近年の世界マーケットで好調なセールスを記録しています。
一方、C-130を開発したロッキードマーチンでは、改良型のC-130J「スーパーハーキュリーズ」を生産しており、こちらは540機がすでに生産されています。
これら競合相手に、まだ本格的な開発が始まっていない新型輸送機が打ち勝つのは簡単なことではないでしょう。
そこでKAIでは、従来の輸送機との差別化するために、「NGTA」には輸送機だけでなく、ミッションに応じたさまざまな派生型を想定しています。もともと輸送機は機体が大きいため、新たな機器を追加して別の任務に転用するのが比較的容易です。
輸送機の世界も差別化のマーケティングが必要?
KAIのブースでは「NGTA」の派生型として次のようなモデルが紹介されていました。
フライングブームやポッド式ドローグを装備した空中給油型。消火水散布機を装備した空中消火型。電子戦機材を搭載したスタンドオフジャマー型。レーダーを搭載した早期警戒型。対水上任務ようの機材を搭載した洋上哨戒型。対地火砲を搭載した地上攻撃用のガンシップ型。複数の無人機を搭載して空中から発進させる無人機キャリアー型などです。
まだ実機も開発されていない機体で、ここまで構想を広げるというのも強気なように思えます。しかし、こういった派生型はエンブラエルのKC-390でも行われており、同機はすでに空中給油型の試験を行い、機内搭載用のメディカルモジュールを開発して救命患者輸送任務にも対応できるようにしています。また、今回の「ソウル ADEX 2025」では、ブラジル空軍との共同研究プロジェクトとして海洋哨戒機型のC-390 MPAも発表していました。
現時点では「NGTA」は開発初期の構想段階にあり、実際に試作機の開発段階まで進むのかは未知数です。しかし、本計画にはUAE(アラブ首長国連邦)も興味を持っており、同国とは「多用途輸送機の共同開発」に関する覚書(MOU)を2023年に締結しています。
ただ、これは正式な契約ではなく、機体自体の開発も本格的に始まっていないため、具体的にどのレベルで計画に参加するかは未定のようです。とはいえ、本格的な開発パートナーとなれば予算の分担や、輸出時の中東諸国に対する支援が期待できます。
韓国では国産戦闘機としてKF-21を開発しましたが、国内産業の育成のために国産軍用輸送機の開発を望む声も一部に強くあるとか。そのため、予算や開発リスクなど多くの苦労が予想される本計画も、そうした声に後押しされて形になる可能性は十分あります。
ひょっとしたら、案外早く「韓国初の国産輸送機」が実現する日は来るかもしれません。
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