現在のステルス機のはしり!? 万能機「モスキート」が生まれたワケ「家具職人でも作れる機体」を目指していた!?

第二次世界大戦中の1940年11月25日、ドイツ空軍機の猛攻から必死で本土を守っていた、いわゆる「バトル・オブ・ブリテン」の最中に、イギリス空軍の双発軍用機、デ・ハビランド「モスキート」が初飛行しました。

時代遅れと思われていた木材を使った機体

 第二次世界大戦中の1940年11月25日、ドイツ空軍機の猛攻から必死で本土を守っていた、いわゆる「バトル・オブ・ブリテン」の最中に、イギリス空軍の双発軍用機、デ・ハビランド「モスキート」が初飛行しました。

 イギリス最大の危機ともいえる状況下で初飛行した同機は、当時の基準では“特殊”な素材で作られていました。なんとエンジンやプロペラ以外、ほとんどの部品がベニヤ板とバルサ材からなる複合木材だったのです。

 当時ですら時代遅れと思われた素材で構成されたこの機体は、当初の目的であった爆撃機だけでなく、偵察機や昼間戦闘機、夜間戦闘機など、様々なタイプが登場することとなりました。その理由のひとつとして、木材で作られた機体であることも関係しています。

 そもそも、なぜこのような機体コンセプトになったかというと、話は同機の開発計画が持ち上がった1930年代、イギリス空軍省から指名を受けた頃にさかのぼります。

 当時、同社の創始者であるジェフリー・デ・ハビランドは、有事の際にアルミニウムが不足する可能性を予見するとともに、家具や木工分野の職人も動員できるようにと、当時でさえ時代遅れといわれた木材を機体素材に使用した軽爆撃機を計画しました。

 ただ、デ・ハビランドも思いつきで計画を進めたわけではありません。同機の前に開発したDH.91「アルバトロス」で、木製モノコック構造とヒマラヤスギとバルサの合板を用いた胴体によって、良好な航続距離と高速性を実証しており、その構造を活かせると判断したうえでの決断でもありました。

戦闘機よりも速い! そしてなぜかレーダーに映らない!?

 さらに、イギリスが誇るエンジン技術が、この機体の性能を予想以上に向上させることになります。

 モスキートに搭載されていたのは、1710馬力のマーリンエンジン2基という強力な動力でした。金属よりも軽量な木材を機体素材としたことで、最大速度は667.9km/hに達し、高い高速性能を獲得したのです。このスピードは、当時バトル・オブ・ブリテンに参加していたイギリス空軍の最新鋭単発戦闘機「スピットファイア」Mk.IおよびMk.IIを上回る驚異的なものでした。

 さらに、木材を構造材としたことが意外な効果をもたらしました。レーダ波が反射されず、レーダーに映りにくいという、現在のステルス機に近い特性を得たのです。同機は1943年頃までドイツ拠点への昼間爆撃などを実施しており、業を煮やしたヘルマン・ゲーリングが「モスキート狩り飛行隊」を編成しました。しかし、レーダー反射が弱く、かつ高速であったため、同機を捕捉するのは困難だったといわれています。

 また、この高速性能を活かせば爆撃機以外にも利用できるという考えから、1941年5月には戦闘機型の試作機が完成します。この機体は7.7mm機銃4丁と20mm機関砲4門を機首に集中装備した、大火力を誇るものでした。同時期には夜間戦闘機型も開発され、こちらは機首に機上レーダーを搭載していました。これら戦闘機型は主にイギリス本土防空に従事し、ドイツ軍機600機以上に加え、飛来した多数のV1飛行爆弾(ミサイル)を撃墜したとされています。

 偵察機としても同機は高い性能を発揮しました。戦闘機すら上回る高速で敵地上空に侵入し、偵察後は追撃してくる戦闘機を振り切って離脱するという戦法で、ドイツ軍や日本軍を悩ませました。ヨーロッパでは、大戦末期にドイツ空軍がメッサーシュミット Me262 ジェット戦闘機を投入すると高速優位性は失われましたが、日本軍を相手にしたビルマ戦線では、その優位性を最後まで維持しました。ただし、現地の雨と高い湿度によって木材が腐食し、飛行不能となる機体も一定数あったようです。

 同機は各タイプ合わせて7700機以上が生産され、イギリス軍のほか、アメリカ陸軍航空軍(のちのアメリカ空軍)や、戦後はベルギー、ノルウェー、イスラエルなどでも使用されました。

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