ファーストガンダムでは圧倒的な軍事力を示した地球連邦軍、ただのその後のシリーズでは弱体化が目立ちます。なぜなのでしょうか。
圧倒的な戦力投入できた国力はどこへ?
「我がジオンの国力は連邦の30分の1以下である」――。これはアニメ『機動戦士ガンダム』で、ジオン公国の独裁者ギレン・ザビが演説中に語ったセリフです。
実際、劇中では画面を埋め尽くすほどの地球連邦艦隊とMS(モビルスーツ)群が描かれ、地球連邦軍が物量でジオン軍を押しつぶす様子が表現されています。
「開戦時に新兵器・新戦術で圧倒的勝利」の後、「戦線の膠着」、そして「体制を立て直した側が圧倒的国力で反撃」という、『ガンダム』の一年戦争の流れは、現実の第二次世界大戦に類似しており、おそらく参考にされたと考えられます。
これだけ圧倒的な軍事力を示した地球連邦軍ですが、年を追うごとに縮小していきます。一年戦争の4年後を描いたアニメ『機動戦士ガンダム0083』では、ジオン軍残党が「ガンダム試作2号機」による核攻撃で観艦式に参加した地球連邦艦隊に大打撃を与えていますが、この時点でソーラ・システムIIを展開した地球連邦艦隊主力は、ジオン軍デラーズ・フリートを圧倒する兵力でした。
しかし、その3年後の『機動戦士Zガンダム』では、いかに内乱状態とはいえ、小艦隊同士の交戦が大半となり、さらに翌年の『機動戦士ガンダムZZ』では、一年戦争時のジオン軍より遥かに国力が低いはずの、宇宙要塞アクシズを擁するネオ・ジオン軍に対抗できず、降伏に近い内容の条約に合意しています。
なぜ短期間でここまで地球連邦軍は弱体化してしまったのでしょうか。その理由を考察します。そもそも「戦争」自体が膨大な浪費行為です。
例えば、第二次大戦中のアメリカは1945(昭和20)年に、GDP2268億ドルの36.6%にあたる830億ドルを軍事費に割いています。ピーク時の軍需産業の雇用者数は、就業人口の16.5%にあたる1100万人に達しました。
一方大戦が終わり、朝鮮戦争がまだ始まっていない1949(昭和24)年には、GDP2,750億ドルの4.8%にあたる132億ドルを軍事費に割いています。軍需産業の雇用者数は、就業人口の1.2%にあたる73万人です。
つまり、軍関係の雇用者が1027万人も減った一方で、GDPは482億ドルも増加したということです。
結局軍需産業は儲からない?
これは、軍関係の雇用は経済発展に寄与せず、国力が浪費されることを示します。大戦中、アメリカは「リバティ船」と呼ばれる規格型輸送船を2,710隻も建造しました。そしてリバティ船は1,700隻以上が終戦後に残されます。戦闘での喪失は235隻なので、実に750隻が解体されたわけです。
そしてアメリカは1946(昭和21)年に「船舶売却法」を制定し、数年のうちに700隻以上のリバティ船を世界各国の商船会社に格安で売却。1960年代まで国際海運界で存在感を示しています。
合わせて、軍備の大幅な縮小も図られています。代表的なのが戦艦の退役です。終戦時に建造から2~4年程度で、当時世界最高レベルの性能を持つノースカロライナ級戦艦やサウスダコタ級戦艦ですら、1947(昭和22)年に退役させています。そして、最新のアイオワ級戦艦でさえ、「ニュージャージー」と「ウィスコンシン」が1948(昭和23)年に、「アイオワ」が1949(昭和24)年に予備役になっているほどです。
こうした現実の事例から推測すると、『ガンダム』の世界では、アメリカ以上の軍縮が徹底的に行われたことは想像に難くありません。一年戦争は「全人口の半数が死に至らしめられた」という、とてつもない被害を出した戦争だからです。
さらに言えば、戦争を起こしたジオン公国は解体され、当面の敵勢力はジオン残党くらいしか反連邦武装勢力がいません。つまり巨大な軍事力を維持する理由が全くないとも言えます。おそらく戦時中に大量に建造されたコロンブス級輸送艦はリバティ船のように民間に払い下げられ、軍艦やMSも大量に破棄されたと考えられます。
そうした時代に求められる軍備とは、「兵力自体は縮小するが、少ない兵力でジオン残党のあらゆる動きに対応できる、戦略機動力に優れた精鋭部隊」ということになるでしょう。『機動戦士ガンダム0083』に登場する各種の試作ガンダム、特に大推力を持つガンダム試作3号機「デンドロビウム」は、そうした発想だと思われます。
ただ、ここで登場した「ガンダム開発計画」の機体よりも、3~4年後に実用化された「ガンダムMk-II」の方が、明らかに予算規模が小さく見えます。
インフラ復興や過度な鎮圧行為が仇に?
これは、「この時期の地球連邦軍が明らかに予算不足」であることも原因でしょう。一年戦争からの復興には巨額の予算が必要です。宇宙世紀0087年の『機動戦士Zガンダム』の世界では、一年戦争で壊滅したスペースコロニー群、いわゆる「サイド」が概ね復興しています。
壊滅したコロニーの再建造にかかるコスト増を補うため、おそらく毒ガスや艦砲射撃で被害を受けた損傷コロニーを修理することで予算を低減したのでしょうが、それでも空気の浄化や再充填、インフラの修理が必要なため、財政負担は非常に大きいはずです。
なお、『機動戦士ガンダムZZ』のネオ・ジオン軍によるコロニー落としや、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の5thルナ落下に対して、地球連邦軍は限定的な兵力しか出していません。
予算不足もあるにせよ、『Z』で各サイドが再建されていることを考えると「一年戦争終了時に地球に居住していた人口」が強制的に再建されたコロニーに移されたはずです。地球連邦政府は、ジオンが「特権階級の利益のために宇宙移民を止めた」と批判したことに対し、「宇宙移民を進めればジオン残党の大義名分はなくなる」と考えて、地球の人口をさらに宇宙に移したということです。
しかし、その間にも『機動戦士ガンダム0083』のコロニー落としで地球はさらなる被害を受けています。スペースコロニーは宇宙空間に浮かぶ、巨大で密閉された生存空間である構造上、数十万人単位の隔離に適していますから、政府は反対する地球からの強制移民者をまとめて監視し、テロ対策を行ったと思われます。
宇宙世紀0085年にはティターンズがサイド1の30バンチコロニーに毒ガスを注入し、1500万人を虐殺。さらに0087年にも同様の作戦を実施しています。つまり、反連邦運動の「テロリスト予備軍」と見なされていたのでしょう。
こうした虐殺行為による反連邦運動の高まりにより、地球連邦はさらに衰退。そして一部の地球連邦軍は反乱軍「エゥーゴ」となったため、仮想敵も「戦略機動性の高い少数精鋭」となり、ますます「個別のモビルスーツの性能」と「機動力の高い新型艦艇」が重視されたのだと考えられます。
それが「新型艦艇の小規模艦隊に精鋭モビルスーツばかり載せ、機種更新が異常に速い」という宇宙世紀の構造が実現した理由ではないでしょうか。数が少ないからこそ、モビルスーツの性能で劣ることは全面的な戦線崩壊を招くのです。ドズル中将の有名なセリフとは逆に、「戦いは質」が宇宙世紀の実像だったのかもしれません。
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