アメリカのトランプ大統領が搭乗した「エアフォースワン」が2025年10月27日17時、羽田空港に到着しました。米大統領専用機として知られる同機ですが、正式名称はVC-25Aといい、もうすぐ退役予定です。
世界に2機しかないアメリカ大統領専用機
アメリカのドナルド・トランプ大統領が「エアフォースワン」で2025年10月27日17時ごろ、羽田空港に到着しました。トランプ大統領が来日するのは、2019年6月に大阪市で開かれたG20大阪サミット(20か国・地域首脳会議)以来6年ぶり。バイデン前大統領の来日時は在日米軍の横田基地(東京都)や岩国基地(山口県)が使用されており、久しぶりとなる羽田への「エアフォースワン」飛来とあって、空港周辺には大勢のギャラリーが足を運んでいました。
アメリカ大統領が外国訪問する際の「足」として使われる「エアフォースワン」ですが、この呼び名はコールサインで、正式にはVC-25Aといいます。アメリカ空軍に属するれっきとした軍用機で、ボーイング747-200Bがベースです。冷戦期のアメリカ外交を支えたVC-137C(ボーイング707ベース)の代替として、1990(平成2)年9月にデビューしました。
機体はテールナンバー「28000」と「29000」の2機あり、メリーランド州のアンドルーズ空軍基地に拠点を置く第89空輸航空団の大統領空輸群が運用・整備を行っています。外遊時には本務機と予備機の2機で目的地の空港に移動することもあれば、大統領を乗せた本務機だけが飛来し、予備機は近くのアメリカ空軍基地などで待機するといった分散運用も行われます。
たとえば2022年5月に東京で日米豪印4か国(クアッド)首脳会議が開かれたときは、1機のみで横田基地に降り立ちましたが、2023年5月に広島市でG7広島サミット(主要7か国首脳会議)が開かれた際は2機とも岩国基地に飛来しています。
ちなみに大統領が搭乗していないときは「エアフォースワン」とは呼称されません。訓練や回送時、退任後の元大統領が移動する際のコールサインは「SAM(Special Air Mission)」が使われます。
VC-25Aに乗ることができるのは大統領とその関係者に限られており、乗員乗客の定員は100人程度に抑えられています。そのため300人以上が乗る旅客用のボーイング747-200と比べると、さまざまな相違点があります。
核攻撃にも対応可能な改造まで
まず機体前方には、「空飛ぶホワイトハウス」となるだけの大統領専用エリアが用意されています。移動中でも大統領としての職務が行える執務室や会議室に加え、プライベートな空間として寝室や浴室、トレーニング室なども設けられています。時には国務長官などの閣僚も同乗するため、機内で安全保障を始めとした国家の重要事項に関わる会議を行うこともあります。
これに加えて、大統領補佐官をはじめ上級スタッフ用のオフィスや手術も可能な医務室、ホワイトハウスのスタッフ、報道関係者、運航に携わる空軍クルーのための作業スペースや休憩室、そして一度に100人分の食事を提供できるギャレー(調理室)2室が備わっています。
ほかにもVC-25Aは飛行中にも地上と同じように情報を集め、アメリカ軍の指揮や連邦政府の運営が行えるよう空対空、空対地、衛星通信に対応した多周波無線機が搭載されています。なお、航続距離は7800マイル(約1万2550km)ですが、空中給油装置を装備しているため、緊急時には他機から燃料を受け取ることで滞空時間を延ばすことができます。
機体は核攻撃が発生しても通信を維持し飛行を継続するため、電子機器には電磁パルス対策が取られていることに加え、ミサイル警報装置やチャフ、フレア、IRジャマーといった欺瞞装置なども搭載。また、専用のタラップなどが用意できない飛行場への着陸も想定し、収納式のエアステアや荷物ローダーも装備しています。
ただ、現行の「VC-25A」は2機とも35年間運用されており老朽化しています。そのため、アメリカ政府は、新型としてボーイング747-8をベースにした「VC-25B」に更新することを決めています。ただ、VC-25Bに関しては当初の納入スケジュールからも遅れており、いつ就航するかは不透明な状況です。
そのような状況に業を煮やしたのか、トランプ大統領はカタールから中古の747-8を取得し、大統領専用機として使おうと画策中です。ただ、こちらは、電磁パルス対策や空中給油装置の未装着など、大統領専用機として必要な機能がオミットされており、一部からは不安視する声があがっています。
混迷の度合いを増す次期大統領専用機問題。いずれにせよ、「VC-25A」がいつまで現役で飛び続けるか、ますます目が離せない存在になりつつあります。
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