列車名は時代の鏡!?「のぞみ」「かがやき」に見るJRの戦略とは 命名に秘められた“勝利の法則”

列車の名前には鉄道会社の戦略が詰まっています。スピード感や地域への想い、時にはジャズナンバーまで。一体どんなルールで決められているのでしょうか。

「速さこそ正義!」だった時代

 2025年10月10日、列車名「アルプス」を冠した夜行特急が中央線で運転されました。

 これに対し、鉄道ファンをはじめ多くの人々が「往年の名列車が復活した」とSNSに投稿し、大きな話題となりました。

 このように、列車の名前は単なる記号ではなく、その時代ごとの鉄道会社の戦略を映し出す鏡でもあります。

 1987年の国鉄分割民営化で現在のJR各社が生まれて以降、列車の命名戦略はおおまかに2つの時代に分けて進化してきました。

 そもそも、国鉄時代の高度経済成長期には、「速さ」が何よりも重視されていました。

 東海道新幹線が開業した1964年以降、速達タイプには「ひかり」、各駅停車タイプには「こだま」という名前が与えられます。光と音、2つの速さの違いで列車の性格を直感的に伝えたのです。

 その象徴的な存在が、1992年に登場した最速達列車「のぞみ」です。大和言葉のやわらかな響きに未来への希望を重ねたこの名は、「速さ」という物理的価値に「夢」という情緒的価値を加えました。

 こうした速さを象徴する名前は、鉄道会社の技術力を示す看板であり、航空機など他の交通手段に対する競争力のアピールでもあったと言えるでしょう。

伝統ある名の復活→体験の創造へ

 次に訪れたのは、地域の歴史や伝統を再評価し、乗客の「親しみ」に訴える時代でした。今回の「アルプス」復活も、この流れの延長線上にあります。

 象徴的な例が、北陸新幹線です。速達タイプには新しい名前「かがやき」が与えられましたが、停車タイプには、かつて在来線特急として絶大な人気を誇った「はくたか」の名を復活させたのです。

 じつは開業前の公募で、「はくたか」は1位、「かがやき」は5位という結果でした。それでもJR各社が速達タイプに新名称を採用したのは、乗客の親しみやすさとスピードイメージを戦略的に使い分けたためといえます。

「はくたか」のような歴史ある列車名は、長年にわたる“無料のブランド資産”を蓄積しており、新サービスを浸透させるコストを大幅に抑えられるという商業的なメリットもあります。

 そして現代は、移動そのものを体験として売る時代へとなりました。その先駆けが、JR九州の観光特急「A列車で行こう」です。この名前は、同名の有名なジャズのスタンダードナンバーに由来し、車内でジャズを聴きながらバーで過ごす、そんな“大人の旅”を想起させるものです。

 この列車をはじめ、多くのJR九州の観光列車デザインを手がけたのが、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏です。

 水戸岡氏の思想は、列車名から内装、制服に至るまで一貫しており、その総合的なデザイン哲学が豪華寝台列車「ななつ星」に唯一無二の体験価値を与えました。その結果、同列車は高価格帯でありながら入手困難なチケットとなるほどの人気を誇っています。

「ななつ星」という名前には、「九州の7つの県」と「九州の7つの主要な観光素材(自然・食・温泉・歴史文化・パワースポット・人情・列車)」、そして「7両編成の客車」、これら3つの「7」と、北斗七星のイメージが込められています。

 こうした乗ること自体が目的となる列車は、全国へと広がりを見せています。

 JR西日本が新たに導入する観光列車「はなあかり」もその1つ。地域の食や文化といった魅力に光を当て、乗客と地域を結ぶ“体験型の旅”をコンセプトに掲げています。

 列車名は今も、時代の価値観を映す鏡です。今後どんな名前が生まれ、どんな物語を走らせていくのか、その行方に注目が集まります。

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