爆弾!? いえ違います「戦闘機の外付けタンク」捨てるにはもったいない高価格 知られざる仕組みとは?

航空祭で注目を集めるF-15やF-35の翼下に装着される燃料タンク「増槽」。いざというときは投棄することが可能ですが、その価格は高級車級だとか。なぜ戦闘中に投棄するのか、その構造とともにスポットを当ててみます。

増槽の仕組み「ゼロ戦」から続く技術

 2025年10月5日、航空自衛隊小松基地で開催された航空祭では、初登場した最新鋭ステルス戦闘機F-35Aとともに、特別塗装が施されたF-15戦闘機にファンから熱い視線が送られていました。

 よく見ると、これら戦闘機の主翼や胴体には、さまざまなものが吊り下げられています。そのひとつが、機体外に取り付ける機外燃料タンク、いわゆる「増槽」です。知らないと爆弾と見間違えそうですが、これを付けると内蔵燃料だけでは届かない長距離護衛や警戒、基地間フェリー飛行が可能になります。

 一方で、外部に飛び出る形で付けるため、空気抗力や重量は増します。その結果、加速や旋回、ロール時の応答性(機体の横転の速さ)が低下し、レーダー反射面積も増えるため被発見性も高まります。それでも任務の幅が広がるため、現代の戦闘機では必須の装備となっています。

 また増槽は、燃料タンクとはいっても内部は精密で、単なる巨大な「缶」というわけではありません。

 その中には、液面の暴れを抑える隔壁や制波板、残量センサー、増槽側から優先的に燃料を使わせるポンプとバルブ、通気や不活性化システムが備えられています。加えて、機体との結合部には燃料・電気の接続と固定フック(ラッチ)が設けられています。

 しかもこの増槽は、戦闘時は邪魔にならないよう投棄できる構造になっています。どうやって投棄するのかというと、接続を遮断して密封し、ラッチを解放したのち火工品や空気圧で能動的に押し出す仕組みで、安全に分離します。

 増槽が実用化されたのは1920年代に遡りますが、効果的に使用したのは、第二次世界大戦における旧日本海軍の零式艦上戦闘機、いわゆる「ゼロ戦」です。

 ゼロ戦は長大な航続距離という設計思想と組み合わせることで、長距離護衛任務という新たな戦術を確立し、その戦略的価値を飛躍的に高めました。

 その後、戦争が進むにつれ日本国内では資材不足が起きたため、紙や木材を用いた増槽も登場しましたが、現代ではアルミ合金や複合材を用いた再使用前提の高価な資産へと進化しています。

投棄の判断と「ステルスのジレンマ」

 ただ、増槽は使い捨てだから安いのかというとそうでもありません。価格を特定するのは難しいものの、その高価さを示す一例として、1997年の米国政府監査院の報告書が参考になります。ここには、1990年当時の価格で特定の航空兵装の平均単価が約11万ドル(当時の為替レートで約1600万円)に達した例も示されていました。

 現代の増槽は、関連システムを含めれば高級車に匹敵、あるいはそれを上回る価格帯の「資産」だと言えるでしょう。

 では、なぜこれほど高価な増槽を、パイロットは戦闘中にためらわず投棄するのでしょうか。

 増槽を落とす主目的は、生残性と戦闘力の回復とされています。目視内の空戦に入る直前や、被弾回避の防御機動に移る瞬間に投棄すると、余分な抗力と重量を捨てられるため、機体本来の運動性能を即座に取り戻せます。

 エンジントラブルや被弾など緊急時にも、機体を軽くして安全性や余裕を確保する手段として用いられます。

 運用面では、胴体に密着して空気抵抗の増加を抑えるコンフォーマル燃料タンクという方法もあります。兵装搭載位置を確保しやすい利点がある一方、飛行中に投棄できないため、戦闘局面でも一定の重量と抗力を背負い続けるトレードオフが生じます。

 現代ではステルス性が重要です。第5世代ステルス機にとって、機体外部に増槽を付けるとレーダー反射断面積が増え、低被探知性が損なわれます。

 そのため、敵の防空網が健在な侵攻初期は増槽なしの「ステルス重視」で運用し、航空優勢を確保した後は増槽や外部兵装を満載した「ビーストモード」へ切り替えるといった柔軟な運用が採られます。

 結局のところ、増槽は「航続距離」と「機動性能」という相反する目標のあいだに橋を架ける装備と形容できます。

 増槽を落とす判断は、任務段階や敵情、残燃料、周辺の安全を総合し、投棄による機動性向上とリスク低減が損失を上回ると見積もられたときに行うのが合理的だということでしょう。

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