
<ソニー 日本女子プロ選手権 最終日◇14日◇大洗ゴルフ倶楽部(茨城県)◇6840ヤード・パー72>
「いえ~い! 私、優勝しても泣いたことがなかったんですけど、初めて泣いちゃいました。それくらいうれしいです」
金澤志奈がメジャーで念願のツアー初優勝。それを見届けた申ジエ(韓国)は、まるで自分のことのように心から喜んだ。
金澤が中学3年生の頃、日本ツアー1勝の金愛淑(キム・エイスク)に習い始めたことをきっかけに、2人は出会った。ここ3年ほどは、オフにオーストラリアで合宿をし、隣に並んで球を打ち込むなど長い時間を過ごしている。
最終日、12位から出たジエは3バーディ・3ボギーの「72」でプレー。トータル2アンダー・10位タイで優勝に届かずにホールアウトしたが、「志奈も私の前で優勝したい気持ちもあると思うので待ちます」と、“妹”の奮闘と勝負の行く末を見守った。
ラウンド中でさえ、ジエは金澤のことを気にかけた。リーダーボードでその状況を追っていたという。「グリーンが硬くなって、ピンポジションも難しくなった。ショートゲームが得意だから、志奈に有利なコースになったと感じました。遠いところから顔や姿勢を見て、きょうは大丈夫だと思っていた。どれほど長く待ったか、どれほど耐えてきたか、志奈の気持ちをよく知っている。よくガマンして、自分の力を見せました」
そして優勝が決まった後、18番グリーンそばにいると、ギャラリーや多くの関係者から『おめでとう!』とたくさんの声を掛けられたと笑う。表彰式で写真撮影をする金澤のことを指しながら、「(おめでとうを言う相手は)そっちです~、って(笑)。私だけの前じゃなくて、地元で、皆さんの前でというのがもっとうれしいと思います。みんな盛り上がってくれて私もうれしい」と目を細めた。
「今年は本当に調子が良い」と評価する金澤の変化を、こう語る。「ガマンしたところ。前は優勝争いがダメだったら、すぐ諦めてしまうような傾向があった。しっかり心を持って、集中できるようになったと思います。体力面もありますね」。金澤自身も、今季好調の自信がついたことで、“優勝したい”と強く思いながらプレーするようになったと、勝利との向き合い方が変わったことを明かしていた。
「このメジャー大会で大きい壁を乗り越えたから、これからもっと上がるなと。もっとライバルになりますね。私も勝負の中にはいって、2人でいい勝負がしたいです」
優勝が決まり、グリーンそばにジエの姿を見つけると、金澤は大粒の涙が止まらなくなった。ジエはハグで受け止め、「ありがとう」と言葉をかけた。そして、「周りに応援してくださっている人が多い。スピーチはゆっくりしてね」と、初の表彰式を迎える妹にひとつだけアドバイスを送った。(文・笠井あかり)