
ジェット旅客機のエンジンは年を追うごとに、太く、大きくなっている傾向にあります。なかには、これで高速を出せるのかと思うほどの太さを持つものも。なぜこのようなことになっているのでしょうか。
「エンジン太くなる」とむしろ“ダイエット”に?
ジェット旅客機のエンジンは年を追うごとに、太く、大きくなっている傾向にあります。2025年現在ではまるで樽のようで、これで高速を出せるのかと思うほどの太さを持つものも。なぜこのような形になっているのでしょうか。
実のところ、この太くなったエンジンの搭載によって、ジェット旅客機は燃費と騒音の2つを減らす“ダイエット”に成功しています。ジェットエンジンがどれだけ太いか、それを示すといえる指標が「バイパス比」で、その値は近年、かつての10倍以上になっています。
同じジェットエンジンでも、1950年代から60年代初期にかけて開発したものと現在のものを比較すると、外見を一目見て違いが分かるほど太くなっています。これは、エンジンの最前部に付くファンと呼ばれる「送風機」が大直径化しているためです。
前述した「バイパス比」は、このファンと、「コア」と呼ばれる部分それぞれを流れる空気量の差を示し、値が大きくなるほどエンジンは一般に太くなります。ジェットエンジンの仕組みをごく簡単に示すと、吸い込んだ空気にコア部分で燃料を混ぜて燃焼・膨張させて高速で噴射し推力(推進力)を得ます。このため、日本では「ジェット」という単語が知られる以前は、ロケットなども一緒にして「噴推」(噴流推進又は噴射推進の略)と呼ばれてもいました。
「噴推」という言葉が死語になる以前、噴射のみで推力を得る「ターボジェット」と呼ばれるタイプがまず登場しました。これは旅客機にも使われていましたが、旅客機の飛行速度であるマッハ約0.9程度で飛ぶにはターボジェットは燃費が悪く、その問題を解消するべく生まれたのが現代の旅客機の主流である「ターボファンエンジン」です。
これは、コアから発せられる高温高圧の空気と、「送風」のようにファンを経由した低温・低圧の空気、ふたつを組み合わせて推力を得る方式です。このことで消費する燃料が減りますので、ターボジェットより効率が良いほか、ファンから「送風」された空気が高温高圧の空気を覆うことになるため、騒音も少なくなります。
ターボファンからターボジェットへ歴史的な事例を示すと、米国のボーイング707は最初ターボジェットのJT3を付けていましたが、1960年代初頭にファンを追加したJT3Dへ更新して飛ぶようになりました。そして、その後、より効率化を求め続け、バイパス比は大きく、つまり「『送風』の空気の割合が多くなるよう」な設計努力が続けられてきたのです。
エンジンが太くなったのは、その「送風」の空気をより多く取り込むべく、大型のファンを取り付ける必要があるためです。
同じシリーズでもだいぶ変わった「エンジンの太さ指数」
バイパス比は年代を追って比べると、ボーイングでもっとも売れたロングセラー機「737」を例に挙げると、初期型である737-100/-200に用いられたJT8Dエンジンは1.74でしたが、続く737-300/-400/-500に搭載されたCFM56では5.1~5.5となりました。
さらに同じ小型旅客機クラスで、現在のエアバスA320neoなどが使うPW1000Gシリーズは12のものもあります。また、ボーイング777-9のGE9Xでは9.9とされ、現在ロールス・ロイスが開発に取り組んでいるウルトラファンは15と言われています。
「バイパス比が大きい=ファンの直径が大きい」ことは、JAL(日本航空)・ANA(全日空)がボーイング777を導入した際、搭載しているエンジンの直径が、737の胴体直径より太いかもしれないと一部で話題になりました。また、ロールス・ロイスのウルトラファンは、チューブと呼ばれる英ロンドンの地下鉄のトンネルより太いとされています。
ただし、ファンの直径が大きくなると、旅客機を新世代機へリニューアルする際に地上との間隔が減り、装着に問題が出ることも。737の最新世代機「737MAX」がこの代表例で、エンジンの装着位置を従来機より機首側・上側にするなどの設計変更を迫られました。
ファンの大直径化は限界があるため、より高い推力と低燃費を目指すには羽根の形状や強度、冷却機能を高めるなどの改良も続けられています。とはいえ、今後旅客機のジェットエンジンがどれほど太くなるかにも興味は惹かれます。
※誤字を修正しました(5月25日14時)。