トランプ命名 車の「ボウリング球テスト」一体何のため? 日本の交通事故死者削減に直結 アメリカには不必要?

アメリカによるクルマ部品への追加関税が発動。トランプ大統領は米国内で実施されていないことを背景に、日本の車両安全規制を「ボウリング球テスト」と称してやり玉にあげました。この検査、日本にとって実はかなり重要。日米の交通環境の違いから説明します

ボウリング球テストはやってないけど、似ているテストなら

 自動車産業の生産拠点をアメリカ国内に結集することに手段を問わないトランプ政権は、2025年5月3日、輸入されるエンジンなど主要部品に対する25%の追加関税を発動させる一方で、関税軽減措置も発表。日本側は赤沢亮正経済財政・再生相が中心となり関税交渉を活発化させています。

 アメリカ側が非関税障壁の一つとして指摘するのが、日本の「保護主義的な工業製品の基準」です。トランプ氏は4月21日(現地時間)に自身のSNSで「非関税措置の不正」8項目を記載。日本の安全性能基準「ボウリング球テスト」に言及しました。

《Protective Technical Standards (Japan’s bowling ball test)》

 トランプ氏は就任一期目にも、この基準について支持者との非公式イベントで批判。ワシントンポストはトランプ氏が「ボウリング球を20フィート(約6m)の高さから落とすテストでへこんだら不合格になる、ひどい扱いだ」と話したことを伝えています。

 ボウリング球を使ったテストの存在をについて、国土交通省は否定します。国内では実施されていません。あえていえば、型式指定制度には、ボウリング球を連想させる「歩行者頭部保護性能試験」があります。

 自動車安全アセスメントを毎年実施する「ナスバ」(NASVA 独立行政法人自動車事故対策機構)がウェブサイトで公開している動画を見ると、半円形の物体がボンネットに向かって勢いよく射出され、跳ね返る様子が公開されています。これがトランプ氏のいう「ボウリング球テスト」のようです。

 ナスバは型式指定制度で実施される検査の条件をさらに高度化して、市販車の安全性能について比較テストを実施し、自動車ユーザーに情報提供を行っています。歩行者頭部保護性能試験もその一環で市販車のモデルごとに行っています。

ボウリング球は「人の頭」 運転者にもメリット

「歩行者頭部保護性能試験」は、自動車が一定の速度で歩行者をはねた時、ボンネットやフロントガラスに衝突した歩行者の頭部への衝撃をどのくらい和らげることができるかを測定する試験です。ナスバの担当者は次のように話します。

「半円形の物体は『頭部インパクタ』と呼ばれ、大人および子供の頭部を模擬したダミーです。衝突試験では胴体と手足が付いた人体ダミーを使うこともありますが、この試験では頭部インパクタが受ける衝撃を測定して、頭部傷害値(HIC)として評価します。人体ダミーを使うと、頭部傷害値にばらつきがでてしまう可能性があるため、試験条件を一定にするために頭部インパクタを使っています」

 ナスバでの歩行者頭部保護性能試験は、自動車の歩行者に対する衝突速度を速度50km/hと想定して、頭部インパクタを速度40km/hで発射します。頭部傷害値が低いほど歩行者保護性能が高いと評価されます。

「ボディがへこまないためのテストではなく、頭部がクルマに衝突した際の衝撃を和らげるため、車両によってへこむことを想定しています」(前同)

 ちなみにアメリカでは、歩行者の頭部保護性能試験は実施されていません。

 国内の交通死亡事故の特徴は、歩行中の被害者の割合が、常にいちばんの要因にあげられることです。歩行者の被害は、おもに四輪車との衝突です。一方、アメリカでは、日本だと最下位の要因である「四輪車乗車中」の割合が筆頭に上がります。

 日本のように車両と歩行者が交差しやすい交通環境では、歩行者保護機能が高いことが運転者にもプラスに働きます。アメリカのように歩車分離が進む環境で、比較的走行スピードが高い対車両事故が多い環境下では、頑丈な車体や、運転者の保護が優先されるのかもしません。そんなケースでも、対歩行者の事故では保護機能が有利に働くはずです。

 日本では関税交渉に向けて輸入自動車の安全や環境性能の審査に関する特例の拡充が検討されています。アメリカ車の歩行者保護性能の高さをアピールすることにもなる「ボウリング球テスト」。無審査になると、そのチャンスが失われることになります。

【スゴイ速さでボンッ!】これが「ボウリング球テスト」です(動画 3:32頃~)

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