
群馬・長野県境の「三国トンネル」が「新三国トンネル」に役目を譲り3年目となりました。新トンネル建設の背景には老朽化もありましたが、それ以上に切実な理由もありました。それはどんなことなのでしょうか。
旧三国トンネルはとにかく幅が狭かった! その原因は?
群馬・新潟県を結ぶ唯一の一般道である国道17号で、ちょうど県境にあたる標高約1300mの三国峠直下を貫く「新三国トンネル」が開通してから2025年3月19日で3年目となります。同トンネルは1959年に開通した「三国トンネル」(旧三国トンネル)の真横に、代替ルートとして誕生しました。なぜ新しいトンネルを掘りなおしたのか。それには、老朽化以上に切実だった問題があります。
旧三国トンネルは、一般道としては唯一、越後山脈を抜けて両県を行き来するルートとして長らく機能してきましたが、大きな問題を抱えていました。トンネル内の漏水です。
同トンネルでは開通当時から、越後山脈からの地下水に悩まされてきました。これらは湧き水や雪解け水などが主ですが、トンネルの外壁からしみ出た漏水がトンネル全体で壁を浸食することとなってしまいました。
その漏水を防ぐため、旧三国トンネルでは早くも開通から間もない1961年に防水のためのモルタル吹き付け工事が行わたのを皮切りに、合計4度、計30か所に渡る漏水工事を行い、内壁をモルタルやコンクリートで補強するなどの措置がとられましたが、この措置には大きな弊害がありました。トンネルの幅が狭くなってしまったのです。
壁が補強により分厚くなった結果、当初6mだったトンネルの幅は5.5mに、有効高さに関しても3.8mしかなくなり、大型車同士のすれ違いが難しくなっていました。実際、国土交通省関東地方整備局によると大型車がすれ違う際にトンネルの内壁を擦るなどの事態が生じていたそうです。
「どうしても17号通らなきゃダメ?」「ダメです!」その理由は?
大型車の通行が困難ならば、高速道路である関越自動車道を使えばよいのではと思うかもしれません。三国トンネルと並行して、関越道も群馬・新潟の県境に関越トンネルが通っています。そもそも新潟側の苗場スキー場など、国道17号の山間部にある目的地にいかない限り、有料ではあるものの圧倒的に関越道の方が利便性は高いです。それでも一部の大型車は国道17号を通り続けました。通らざるを得ない事情があったからです。
実はタンクローリーなど、危険物を載せた車両は2025年現在でも、法律で関越トンネルの通行が禁止されています。
道路交通法では、川や運河、海などの水域の底を走る水底(海底)トンネルや長さ5000m以上の長大トンネルでは、危険物積載車の通行が「トンネルの構造を保全し、又は交通の危険を防止するため」という理由で禁止されています。関越トンネルは1万m以上の長さがあり、危険物積載車が通れない長大トンネルに当たります。そのためガソリンなど引火性のある液体や、塩素酸ナトリウムなど熱、衝撃、摩擦によって分解し激しい燃焼を起こす物質を運ぶ、「危」のプレートを車体に付けた車両は通ることができないのです。
そのため、新三国トンネルの開通は、関越トンネルを通れない大型車同士でも、安全にすれ違いを行うために必要でした。関東地方整備局は、国道17号について「関越自動車道が災害や事故により通行止めとなる際、代替経路となるなど物流や住民生活に不可欠な幹線道路です」と重要性を説明しています。
旧三国トンネルを掘った当時の技術では、土圧や地下水などを考慮して、あまりトンネルの幅は広くできませんでしたが、半世紀以上後に掘られた新三国トンネルは、この幅の問題が解消されています。
旧トンネル掘削当時にはなかった、掘った直後の地山の岩などにコンクリートを吹き付けた後、ロックボルトを打ち込んで吹付コンクリートと地山を一体化させるNATM工法を採用するすることで、幅が8.5mとかなり広くなりました。なお、新トンネル開通後、旧トンネルは閉鎖されました。