「はだしで歩き、木々をハグ」6年8カ月ぶりの復活優勝【舩越園子コラム】

PGAツアーはレギュラーシーズンとプレーオフ・シリーズが終わり、今週からは来季シード権獲得を目指す『フェデックスカップ・フォール』が始まった。
その第1戦「プロコア選手権」を見事に制したのは、38歳の米国人選手、パットン・キジーアだった。

2日目から単独首位へ浮上。3日目も最終日もトーナメントリーダーの座を守り通し、最後は2位に5打差の圧勝だった。

しかし、「圧勝」という言葉とはまるで似つかわしくないほど、キジーアのプレーぶりは最後の最後まで地道で、慎重だった。

72ホール目の18番(パー5)は、その典型だった。フェアウェイバンカーから安全にレイアップ。3打目も大きなグリーンの真ん中に乗せ、12メートルのファーストパットをきっちり30センチに寄せて、3オン2パットのパーで締めた。

どこまでも安全にプレーしていたキジーアは、「これでいいんだ」と自身に言い聞かせていたように感じられた。

ルーキーイヤーだった2016年にこの大会で初優勝に迫りながら、最後の最後に1打差で逆転負けを喫したキジーアの心の中には、今なお悔いが残っているという。

「あのとき、僕はここで勝つべきだった」

無理をして攻めた結果の1打差の敗北は、あまりにも苦い経験だった。だからこそ、同じ場所で勝利に迫った今回は、大差で迎えた最終ホールとはいえ、彼はどこまでも慎重だったのだ。

そんなキジーアの戦い方は、傍から眺めていても、ゴルフは「これでいいんだ」「これが理想だ」と、改めて感じさせられた。

惜敗でショックを受けたとはいえ、キジーアは翌2017年にメキシコのマヤコバで初優勝を挙げ、2018年には「ソニー・オープン・イン・ハワイ」でも勝利した。

だが、その後は勝利から遠ざかり、近年はスイングに入る以前にセットアップやポスチャーに迷いが生じて、「うまく構えられない」という現象に苦しんできた。

とりわけ今季は不調に陥り、レギュラーシーズンは18試合中10試合で予選落ち。プレーオフ・シリーズ進出を逃し、フェデックスカップ・ランキングは132位まで下降。なんとしてもランク125位以内に食い込み、来季のシード権を死守しなければと切羽詰まったキジーアは、自分の不調の最大の問題はメンタル面ではないかと考え、ある女性メンタルコーチを訪ねた。

そのメンタルコーチから受けた指導は、こんな内容だったそうだ。

「芝の上をはだしで歩き、大きな木をハグしなさい。そうすることで、大地や木々からパワーをもらうことができる」

言われた通り、キジーアは今大会の舞台、カリフォルニア州ナパのシルバラード・リゾートに足を踏み入れた途端、芝の上をはだしで歩き、大木をハグした。

すると、予選落ち続きだった今季のキジーアとは別人のようなプレーを初日から披露。スムーズにセットアップできるようになり、グッドショットを連発した。パットも絶好調になり、リーダーボードを駆け上っていった。

それが、メンタルコーチが言った「大地や木々からもらったパワー」のおかげなのかどうかは、神のみぞ知るところではある。だが、「パワーを得た」と信じたことで、本当にパワーが湧き出し、そうやって彼の中でポジティブな連鎖が起こったのではないかと、私にも思える。

レギュラーシーズンの負の連鎖を見事に断ち切り、6年8カ月1日ぶりに勝利を挙げて、通算3勝目を飾ったキジーアのフェデックスカップ・ランキングは132位から一気に70位へジャンプアップした。

「ワラをもつかむ想いで、必死に取り組んできたことが報われた。とてもいい気分だ。ゴルフが、とても楽しい」

そんなキジーアのカムバック優勝は、見ていた人々にとっても、とても楽しいゴルフだったに違いない。少なくとも私は、とてもエンジョイさせていただいた。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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