わずか2年半で消えた「幻のJR新型特急」とは 裏目に出た高性能

国内初となる車上型の制御付自然振り子式を採用しデビューしたJR西日本の特急形273系。「やくも」の時短と乗り心地向上を両立させています。ところでJR北海道でも約10年前、同様のコンセプトで試作された車両があることをご存じでしょうか。

その名も「キハ285系」

 2024年4月、岡山~出雲市間を結ぶ特急「やくも」へ新型273系電車が投入されました。グループ向けのセミコンパートメントを設けるなど、接客設備には新機軸が盛り込まれていますが、乗り心地の向上という「やくも」が長年挑んできた課題も、改善が図られています。  これには国内初となる「車上型の制御付自然振り子式」を採用。自然の遠心力に任せる従来の振り子式とは異なり、車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合し、適切なタイミングで車体を傾斜させる機構です。  ところでJR北海道でも10年前、カーブで車体を傾斜させる新型車両を試作したことがありました。しかし“高性能すぎる”という理由で、すぐ廃車になっています。

 それはキハ285系ディーゼルカーです。前出の振り子式に加え車体傾斜装置も搭載した「複合車体傾斜システム」を採用し、カーブを高速で通過しながら乗り心地も維持するというものでした。広大な北海道では、所要時間の短縮は旅客サービスの点で特に重要視されます。 2014(平成26)年9月、試作されたキハ285系3両は札幌まで輸送されますが、時を同じくしてJR北海道は開発中止を発表。工場内などで何度か試運転が行われたものの、営業運転することはなく、2017年3月に廃車されました。北海道新聞は当時、その開発費は25億円だったと報じています。 高額な投資までして、なぜキハ285系はすぐに廃車されたのか――これには当時、JR北海道が抱えていた問題が大きく関係していました。

多すぎたデメリット

 2013(平成25)年9月、函館本線の大沼駅(七飯町)で貨物列車の脱線事故が発生。原因はレール幅が基準値を超えていたためでした。しかしJR北海道の保線担当者はレール幅のデータを改ざん。ほかにも頻発していた車両トラブルなども相まって、同社の不祥事が社会的にクローズアップされました。行政指導や社会の機運もあり、JR北海道は最優先事項に安全対策を掲げます。 そのような中で、スピードアップを狙ったキハ285系は、社の方針と乖離してしまったのです。高度な技術を採用した分、そもそものコストが増加したことに加え、複雑な車両構造のためメンテナンスコストもかかること、スピードアップで線路に与えるダメージが大きくなり線路保守コストも増加すること、そしてこれらに十分なコストをかけられないと安全性が低下することが課題となりました。

 つまり、キハ285系はメリット以上にコストや信頼性についてのデメリットがいくつも存在すると判断されたのです。安全対策を最優先していた中、そのデメリット解消に金銭的、人的、時間的コストをかけられる状況ではなく、開発を中止せざるを得ませんでした。 結果的にJR北海道は、1998(平成10)年から導入しているキハ261系ディーゼルカーを改良し運行しています。

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