新型「やくも」本当に酔わないのか? 乗り物酔いする鉄道カメラマンが捨て身の実証!

伯備線にまもなく新型の特急「やくも」がデビュー。“酔う”ことで知られる振り子式特急の進化版は、本当に酔わないのか、乗り物酔いする筆者が試乗会で実証し、旧型車両と乗り比べをしてきました。

全車両が新造車の273系「ブロンズやくも」

 伯備線の特急「やくも」に、2024年4月6日から新型車両273系がデビューします。最新の振り子装置を採用し、乗り物酔いを改善したという車両は、本当に酔わないのか? 乗り物酔いする鉄道カメラマンの筆者(坪内政美・スーツの鉄道カメラマン)が、2024年3月23日に報道陣や「WESTER」会員・インフルエンサーを対象とした試乗会で身をもって体験してきました。

 鉄道カメラマンなのに列車酔いしてしまう。そんな筆者にとって一番乗りたくない列車が、現行の特急「やくも」です。 中国山地を縦断する伯備線はそのカーブの多さから、乗り物酔いする者にとって最大の“難関”です。岡山と出雲市を結ぶ特急「やくも」は、1970年代に開発された日本初の振り子式を採用した381系で運転されており、高速で走るため、よく揺れることでも知られています。新型車両273系の導入は、じつに42年ぶりです。 筆者が参加したのは、山陰エリアの生山駅から米子駅までのコースで、この日は約100名が乗車、基本の4両編成に4両を増結した8両編成で運転されました。生山駅の3番ホームには「やくもブロンズ」と名付けられた、奥出雲のたたら、石州瓦、夕日に輝く宍道湖など山陰のイメージを取り入れた青銅のような明るい茶色を全身に纏った273系の姿がありました。●注目は初登場のセミコンパートメント 乗車してまず目を引いたのは、1号車のグリーン車後部に設けられた半室の「セミコンパートメント」です。半個室状態の4人掛けと2人掛けがそれぞれ2区画設けられています。樹のぬくもりを感じる雲をイメージした大型テーブルやプライベート照明、自らセッティングできるノビノビシートはJR西日本の定期特急列車では初採用。普通車指定料金で乗ることができることもあり、これは人気間違いなしの座席です。 グリーン車も2人掛け12名、1人用5席の17席を構え、黄色にオレンジなど暖色系とした座席や、山岳路線である伯備線の沿線をイメージした山の緑をベースにした普通座席が140席(2号車58席、3号車32席、4号車50席)が設けられています。「山陰の我が家のようにくつろげる、ぬくもりのある車内」がコンセプトだそう。 この273系「ブロンズやくも」の設計デザインを担当したのは、あの通勤型117系電車を見事にリゾート列車「WEST EXPRESS銀河」に変身させた株式会社イチバンセン代表の川西康之さん。色の設定やデザインにあたり、2021年当時コロナ禍という厳しい状況下で、地域の社員らとワークショップを開き、これからの陰陽連絡を担う新型車への熱意を集約して生みだしたそうです。

いよいよ出発! 酔い止めは飲んでない!

 そんな明るい空間の車内を見惚れているうちに、13時16分、生山駅を発車。ただ3番ホームから本線進入時の揺れで動いているのが分かったぐらいで、その静かさに驚くばかりでした。列車は伯備線の黒坂-根雨間にある有名撮影地、通称「ネウクロ」を、営業運転を想定した高速運転で駆け抜けていきます。 親子で参加した人は「いつの間に走って、いつの間に止まっているのか、分からないぐらい乗り心地がいいです」。子供たちはノビノビシート化したコンバートメントで思い思いに転がっていました。 前述の通り、重度の乗り物酔いをする筆者ですが、いつもは欠かさない酔い止めも今日は飲んでいません。乗車して30分が経過しても、興奮も手伝ってか、気分は上々。この273系の最大の売りである国内初の「車上型制御振り子」方式が利いている証拠でしょう。 これはカーブの多い伯備線を克服すべくJR西日本・鉄道総研・川崎車両が共同開発した振り子方式で、あらかじめ登録している曲線データと走行地点のデータを連続して照合し続け、最適なタイミングを計って車体を傾斜させるというもの。従来の、自然の遠心力に任せてのやや強引な傾き方をした振り子式とは全く違います。窓のワイドさもあり、視覚的にも閉鎖感を持たせないのも有効に働いていると思います。 乗車45分経過したころ右車窓が開け、天候は良くなかったものの、少しだけ鳥取のランドマークである大山が見えました。これが雪をかぶった美しい稜線だったらと、余裕の気持ちで14時13分、終点の米子駅に到着。 約1時間の試乗会で、パンフレットにある「乗り物酔い評価指標、最大23%改善」は伊達や酔狂ではないと実感しました。

●様変わりした米子駅に「やくもラウンジ」 米子駅は以前、社屋を兼ねた武骨なコンクリート建築、いわゆる国鉄建築の駅舎でしたが、2023年7月にリニューアル。広大な車両基地を南北に跨ぐ「がいなロード」を併設した橋上駅へと変貌しています。 駅の待合室の名は「やくもラウンジ」と名付けられ、オリジナル塗装を施した自販機があるほか、カウンターや椅子には「やくも」にちなみ鳥取県産の智頭杉が使われており、ここにも新型「やくも」への連携した取り組みがうかがうことができます。「やくもラウンジ」の利用時間は始発の4時35分から23時までです。

旧型「381系やくも」と乗り比べてみた!

 米子駅から生山駅へは、15時35分発となる特急「やくも22号」に乗車することにしました。現行の381系「やくも」は、273系導入に伴い今年6月までの引退が決まったことで、“最後の国鉄型特急”として全国の鉄道ファンの注目を集めています。 3月16日のダイヤ改正からは全車指定席となっているため、4号車に席をとり1番ホームで対峙します。やってきたのは2007年にリニューアルされた「ゆったりやくも」7両。通常の4両編成に3両プラスの増結編成です。 これはマズイ……敵ながら、よりにもよって一番鉄道ファンの心をくすぐる編成です。273系と違い、「プシュー!」という威圧感をだすドア開放で筆者を飲み込みます。座席はその名の通り、かなりゆったりとしており、座り心地は申し分ないものの、強力なモーターを内包する車体が、長年の運用のためか小刻みに身体を揺さぶります。結果、乗車5分で酔ってしまいました。

 鉄道ファンの用語に「ぐったりやくも」というのがあります。この言葉の由来はこういう状況に陥ることを表しており、先に述べた川西氏とのワークショップでも、今の「やくも」のイメージは「臭い」「暗い」「酔う」との散々な意見が多かったといいます。 しかし、モーター音を唸らせながら険しい中国山地の激しいカーブを突き進む、381系の走りや直向きな姿は、沿線に多くのファンを引き付け、最後の国鉄型特急として感動を与えてくれています。 定期列車としての381系の運用終了は6月15日運転のやくも1号です。残りわずかとなったこの編成の見どころである増結編成との連結面で、生山駅到着まで381系に酔いしれたのでした。

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