「ポケット戦艦」の再来!? ドイツ戦後最大艦の建造で思い出される“超ミニ&火力マシマシ艦”とは

米軍の巨大なフリゲート艦を国内の造船所で建造し始めたドイツ。同国で建造される艦艇としては戦後最大になるものですが、かつてこの国では「ポケット戦艦」なるユニークな艦が作られました。

重巡以上の火力で戦艦を超える速力を持つ!

 2023年12月5日、ドイツの造船所でアメリカのイージス駆逐艦であるアーレイバーク級よりも巨大な、最大排水量1万1000トンにも及ぶF126多目的フリゲートの建造がスタートしました。完成すれば同艦は、ドイツが戦後建造した艦艇の中では最大となります。

 戦後は艦艇を大きさではなく、役目で分類する傾向があるので、大きくても問題はないのですが、同艦はその巨体で、対艦・対空・対潜戦のほか、航路水域の監視や非戦闘員の救出、テロ防止や海賊対処など多岐にわたる任務をこなすというかなり野心的な艦になっています。そして、ドイツは戦前にも、巡洋艦を上回る砲撃力と戦艦を上回る速力を有するという今回の巨大なフリゲート以上にユニークな艦艇を建造した過去があります。俗に「ポケット戦艦」と呼ばれることもある、ドイッチュラント級装甲艦です。 同艦は、第一次世界大戦後、ヴァイマル共和政下のドイツ海軍で退役する旧式戦艦(前弩級戦艦)の代わりとして1929年2月5日から建造が開始され、1番艦は1933年4月1日に就役しました。 当時のドイツは第一世界大戦の敗北により、ヴェルサイユ条約下の厳しい艦艇の建造制限が設けられていました。そのため、世界の海軍の主力を形成しつつあったイギリスのドレッドノート級を超える大きさの戦艦、いわゆる超弩級戦艦を建造できませんでした。 建造制限下では、装甲を施された艦艇の建造は認められたものの、「基準排水量1万トン以下で主砲口径も28cmまで」と厳しい条件がつきました。当時の戦艦の基準排水量は3万トンを超えていたので、単純に半分以下の規模の艦艇しか作れませんでした。

排水量は達成困難なので偽る!!

 それでも、ヴェルサイユ条約以降の1930年に締結された、ロンドン海軍軍縮条約で重巡洋艦の砲の大きさの制限だった「20.3cm以下」という項目はの規制の拘束は受けていなかったため、制限いっぱいギリギリの28cm砲を搭載し、「火力だけなら重巡洋艦よりも有利に戦い、それより大きい戦艦には速力で対抗しよう」という艦艇の開発が試みられることになります。 しかし、要求された火力や速力を実現させるためには、「基準排水量1万トン」の枠に収めるのは不可能でした。そこで、ドイツ政府は同艦の基準排水量は1万トンであると、公には発表していましたが、実際の基準排水量は1万2100トンの艦艇をヴェルサイユ条約の条文そのままに装甲艦と呼称し、3隻建造することになりました。 当時のドイツの仮想敵は主にポーランド海軍と北海方面に展開可能なフランス海軍でした。ポーランド海軍は駆逐艦と軽巡洋艦が主体の艦隊。フランス海軍も、戦艦などの大型艦はイタリア海軍に対抗するため地中海方面へ優先的に配備されており、イギリス相手に正面切って戦わない限りは、“新型装甲艦”の機動力を活かして戦うことができると判断されました。 3隻とも1936年7月17日から1939年4月1日まで行われたスペイン内戦へ初投入され、2番艦の「アドミラル・シェーア」はスペイン人民戦線政府側の戦艦が停泊するアルメリア港を砲撃しました。

 そして第二次大戦に突入すると、ドイツは装甲艦から重巡洋艦に艦種を改めます。1番艦の「ドイッチュラント」に関しては、国名を冠した艦が沈められると士気にかかわるということで1939年11月「リュッツォウ」に改称されました。 大戦中は、さすがにイギリス海軍を正面から相手することは不可能で、通商破壊などに従事。3番艦の「アドミラル・グラーフ・シュペー」は、大戦序盤にイギリス艦隊に捕捉され、逃げ込んだ南米ウルグアイのモンテビデオ湾で自沈しまが、他の2隻は大戦後期の独ソ戦においてバルト海で退却するドイツ軍支援のため艦砲射撃を行うなどし、「アドミラル・シェーア」は敗戦間際1945年4月に空襲で沈められるまで、運用され続けます。「ドイッチュラント(リュッツオウ)」の方も4月の空襲後に損傷し、大破着底しましたが、戦後ソ連に接収されたあと浮揚され、実験用の標的艦として1946年にバルト海に没しました。

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