アプローチも速く振る!? 松山英樹が使うSWのバンスは“ほぼ0度”「他の人が打ったら球が飛ばない」【ツアー担当に聞く】

2014年大会の覇者、松山英樹が4年ぶりにフェニックスCCに帰ってきた。松山といえば、世界屈指のアイアン精度を武器とするが、PGAツアーの選手が聞きに来るほど、アプローチ技術も高い。難しいライからもピタリと寄せていくウェッジには、どんな性能を求めているのか? 松山のクラブを担当し、60度のウェッジの削りも行っているスリクソンのツアーレップ、宮野敏一氏に話を聞いた。
松山のグリーン周りのアプローチの特徴は、フェースを大きく開くこと、そしてヘッドスピードが速いことだろう。ロフトを寝かせて構え、それを立てながらヘッドを走らせることで、“ギュギュッ”と信じられないようなスピンを利かせる。
 
「測ってはいないですけど、松山選手のヘッドスピードは他の人より絶対に速いと思います。だからスピン量が多くて、ピンをデッドに狙っていける」と宮野氏はいう。速く振るからといって、ボールも速く飛び出すわけではない。そのスピードはスピンへと変換されるため、ボールはゆっくりと飛ぶ。“飛ばす必要がない”アプローチで、速く振る選手はそんなに多くない。だから松山のグリーン周りはPGAツアーの他の選手に比べると、少し異質に映るのだ。
 
ウェッジの性能を決めるのはソール形状。松山の60度はソールの真ん中が平らで、前側と後ろ側が削り落とされた台形になっている。「一番上の平らなところはバンスがほぼほぼゼロ。測るとゼロではないんですけど、限りなくゼロに近い」とソールについて説明する。

“バンス”はウェッジの刃が地面に刺さらないように滑って助けてくれる。フェースをスクエアに合わせ、正面から見てシャフトを90度にしたときにソールの出っ張りが作る角度が『バンス角』で、その角度が多いほど、ウェッジは地面に刺さりにくい。やさしくなると言ってもいいだろう。市販されているウェッジではバンス角6度~14度が一般的で、“0度”というものは存在しない。
 
「僕も松山選手の使い古しのウェッジを打ったことはありますけど、他の人が打ったら球が飛ばないです。普通は地面にバンスが当たって、ロフトが寝ないようにサポートしてくれるわけですけど、それがないのでヘッドがボールの下を抜けちゃって、フェースに乗りません」。松山のウェッジはバンスがないため、使いこなすのは至難の業だ。
 
しかし、世界最高峰のPGAツアーのセッティングでは、助けてくれるはずのバンスが邪魔になることもある。特に地面が硬いときには、バンスが滑らずに跳ねて、意図しないボールが出てしまう。「松山選手はサポートなしでロフトを立てて当てることができる。ハンドファーストとかそういうものでもない。それも、進行方向に対して切ってもダメ。ロフトを出したい高さに対して立ててこられる。しかも毎回同じように。そうでないとバンスの少ないウェッジは難しいですね」。

フェースを開いてもバンスが邪魔にならないからこそ、厳しいライからでも難なく寄せているように見えるのだが、実はとんでもないことをやってのけているわけだ。「普段からアプローチグリーンでも一番難しいエリアで練習しているんですよね。地面の硬いところとか、沈んだところとか。そういうライだと微妙なスピードだと喰われるんですよ」と宮野氏は証言する。ゆっくり振るより速く振ったほうがライの影響は受けにくい。ヘッドスピードが速いのにはそんな理由もある。

また、ソール形状のほかに気になるのがネックに貼られている鉛だ。バランス調整のためにヘッドのバックフェースに貼っている選手は珍しくないが、ネックに貼る理由とは? 「ヘッドも選んでいるし、シャフトも選んでいるし、グリップも選んで毎回同じに作りますけど、その数字が一緒で、同じように作っても、ちょっとフィーリングが違うこともある。それで最後に鉛で違和感を消しています」。
 
松山が60度のウェッジを交換するタイミングは「4試合に1回」。宮野氏が削ったソールは3Dスキャンして「なるべく同じものを提供できるように」しているが、松山の繊細な感覚の前では、どうしても振り感に違いが出てしまう。だから、最後の最後に鉛で調整するのだ。「ヘッドのトゥ側に貼ったり、シャフトのグリップ側に貼ることもある」。ウェッジを新調する度に、鉛の貼る位置は変わる。「鉛でどうしようもないときも多々あります」。そうなれば、またイチから作り直すことになる。
 
現在、60度のウェッジは「1年半くらい」同じソール形状のものを使っているが、シーズン中、ドライバーやパターと同じように、ウェッジもソールを削っては打って試す作業が日常的に行われている。松山はもう10年以上、ソール形状をアップデートし続けているのだ。
 
「まだまだゴールは果てしなく遠いなという感じはあります」と宮野氏。続けて、「答えは多分こないです。スイングも変わっていくじゃないですか。特に松山選手はスイングとアプローチをつなげたいタイプで別個ではない。スイングが変わればアプローチの入り方も変わるんです。だから、“終わる”という概念がないんです」と話す。
 
21年の「マスターズ」を含むPGAツアー通算8勝の陰には、そんなウェッジの試行錯誤がある。今週の「ダンロップフェニックス」でも、松山が武器とするスピンの利いたアプローチを見せてくれるに違いない。

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