ソニーホンダのEVは結局だれに“刺さる”のか 日本初公開「アフィーラ」 “走るスマホ”になる部分、ならない部分

日本初公開されたソニー・ホンダのEV「アフィーラ」。その狙いとする客層は、クルマに興味のある人ではなさそうです。これがクルマの“未来像”になるのでしょうか。

ソニーホンダのEV、キモは「みんなでつくるソフトウェア」

 ソニー・ホンダモビリティ(SHM)は2023年10月17日、同社初となるスマートEV「アフィーラ(AFEELA)」のプロトタイプを日本初公開しました。

 この日のプレゼンテーションに登壇したのは、SHM代表取締役社長兼 COOである川西 泉氏。このアフィーラについて川西氏は、「知性を持ったモビリティとして育てていき、ユーザーに寄り添う唯一無二の存在、ガジェット好きが愛着を持てるような新しいモビリティの可能性を追求していく」と説明。その上で「自分の好みに合わせたアフィーラが作れる場所、表現できる場所、共創できる場所として、これらをデジタルの世界で用意したい」と述べました。 その軸となるのが、社外のディベロッパーやクリエイターをはじめとする多くのパートナーが参加できる「アフィーラ共創プログラム(仮称)」です。 そのプログラムの狙いについて川西氏は、「一つはクルマのグラフィックスやサウンドを作ることができるクリエーターやアーティストを巻き込むこと。もう一つはアプリケーションの開発で、これは自社内の知見にとどまらず、外部のエンジニアとも共創して新たなモビリティの可能性を追求していくこと」にあると説明しました。つまり、これはアプリケーションの開発におけるオープン化のことを指しています。 今、自動車業界は「電動化」「自動運転」「ソフトウェア」の3つの流れの渦中にいると言われています。中でもこれから先、自動車の中で重要度を高めてくるのがソフトウェアで、そこに価値を見出す「SDV(Software Defined Vehicle=ソフトウェア定義型自動車)」の時代は間違いなくやってきます。 となれば、そこに競争領域が生まれるのは自明の理。“100年に一度の大変革期”にあると言われて久しい自動車業界において、その競争は激しく、自社やグループ内で開発を進めていく従来のスタイルでは自ずと限界が見えてきます。 その危機感が、アプリケーション開発のオープン化を進めるきっかけになったのは間違いないでしょう。では、具体的にSHMではどんなソフトウェアの進化を狙っているのか、今回の日本初公開では、その対象が明らかにされました。

やっぱり「走るスマホ」?

 アフィーラの目に見える部分でのソフトウェアの開発領域としては、フロントグリルに備えられた「メディアバー」と呼ばれるディスプレイをはじめ、車内のダッシュボードに広がる「パノラミックスクリーン」のテーマ変更、走行時に擬似的なサウンドを響かせる「eモーターサウンド」の音源などがあります。他にもナビアプリの地図上に独自の付加情報を重畳する機能や、アプリケーションやサービスを開発できる環境を用意するとしました。 なお、アプリケーションの動作環境は、ホンダが新型アコードでも採用例がある「Android Automotive OS」を採用することが明らかにされています。 実車を目の前にして、まず目を引かれるのはメディアバーです。ここには車両がどんな状態にあるかを示す内容がテキストや動画などを通して表示されます。周囲の人やクルマなどへ、より具体的に意志を示すディスプレイともなり、この機能は将来、自動運転が実現した際にも役立っていくでしょう。 車内に入ればダッシュボードの左右いっぱいにモニターが広がり、多彩なコンテンツが展開されます。映画や音楽はもちろん、オンラインゲームでは自宅で楽しんだ続きを車内で継続できるほか、出先で様々な人たちと対戦して楽しむこともできます。 そして、カーナビゲーションでは単にサーバーから提供された情報だけでなく、ユーザー同士のコミュニティによって提供された情報も展開する可能性もあるということです。これによって従来のカーナビではあり得なかった新しい活用方法が生まれるというわけです。

 もちろん、これらはすべてコネクテッドの実現によって可能となるもので、そこにはソニーがスマートフォンで培った5Gの技術も展開されるでしょう。 つまり、SDV+オープン化がより最先端な“ガジェットの世界”を提供し、SONYファンの心を鷲掴みにするアフィーラならではの高付加価値車を提供していく――「アフィーラ共創プログラム」はそんなSHMの強い意志が反映されたものと言っていいでしょう。

走りの部分は「守る」

 川西氏はその実現のために、「(SHMは)アフィーラの車両データや走行データのうち、開示できる情報はできるだけ多くセキュア(安全な状態)に提供し、その上でクラウドAPIを用意してクラウド経由でサーバ間連携等も容易にする」(川西氏)と説明。これは多くのディベロッパーやクリエイターが参加できるよう、随時情報をアップデートしていきやすくするための戦略とも言えます。 ちなみに、SDVの分野で先行しているテスラは、金銭を支払うことで新たな機能が体験できるサービスをすでに提供中で、ソフトウェアをライセンスで売ったり、サブスクで売ったりする新たなスタイルを確立しています。ここにはクルマというハードウェアを販売した後に、ソフトウェアの提供によって新たな収益を確保していくビジネスモデルの姿があります。SHMもアフィーラの展開にあたっては、そういった発想を抱いて臨もうとしているのは間違いないでしょう。 とはいえ、アフィーラではこうしたソフトウェアによる進化は、クルマの安全性を左右する部分にまでは取り入れないといいます。川西氏は「情報をオープンにしていくことと、クルマを制御することは別の話。どちらも(オープンで対応)できればいいと思うが、安心・安全がまずは第一となるのは言うまでもない」と説明しています。つまり、「セキュリティ上の問題も含め、守るべきところは守っていく」(川西氏)というわけです。 このことから感じ取れるのは、車両としての走行に関することは、安全性も含め、経験豊富なホンダに任せ、ソフトウェアのオープン化はあくまでソニーが得意とするエンタテイメントの世界で展開していこうとの目論みです。一方でアフィーラには45個ものカメラやセンサーが搭載されており、これを活かした運転アシスト、さらには自動運転のソフトウェア開発を目指しているのも間違いないでしょう。

狙いはクルマ好きでは全くない?

 前述したように、ソニーはこれまで育て上げてきた“ガジェット好き”とされる多くのファンを抱えています。こうしたユーザーを対象に、エンターテイメントの分野でアフィーラのユーザーとして取り込み、モビリティという世界で新たなニーズを巻き起こす――詳細は後日発表されるということで、内容が変更になる可能性は十分考えられますが、そんな想いがこのプロトタイプからは感じ取れました。 ただ、現実を踏まえれば、SDVのスタイルがクルマの制御を含む領域にまで進出するのは時間の問題とされています。特にこうしたデジタルの領域は、あることがきっかけとなって急速に進む傾向にあり、アフィーラが販売を開始する2025年にはそれが実現している可能性は十分に考えられます。 そうした時代の流れに2025年の発売までの約2年間でSHMがどう対応していき、どんなアイディアで我々を魅了してくれるのか。その結果を今から楽しみに待ちたいと思います。なお、このアフィーラのプロトタイプは、東京ビッグサイトで10月28日から始まる「ジャパンモビリティショー2023」で一般に公開されます。

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