禁断の「アメリカ上空“超音速飛行”」40年越し実現へ NASAの実験機X-59完成「細すぎて前が見えない」超絶ルックス!

今夏、アメリカの超音速実験機X-59が完成しました。初飛行は2024年を予定していますが、NASAは同機を使って静かに音速を超えて飛べるかどうかチェックするとか。そこにこだわるのはなぜでしょうか。

経費節約のため、F-16やF/A-18の部品を使用

 SR-71戦略偵察機やF-117ステルス攻撃機など秘密のべールに包まれたミステリアスな軍用機を開発してきたことで有名なロッキード・マーチンのパームデール工場、通称「スカンクワークス」で1機の新型機が完成しました。その名は「X-59」、これは軍用機ではなく静かな超音速飛行を目指すNASA(アメリカ航空宇宙局)の実験機です。 航空機は音速を超える速度で飛行すると、ソニックブームと呼ばれる衝撃波を発生させます。この衝撃波が地上に到達すると大きな衝撃音とともに窓ガラスを破壊するなどの被害をもたらします。そのため、1973年以降、アメリカ上空では民間機による超音速飛行が禁止されています。 NASAは、衝撃波の発生を極限まで抑えることで地上への騒音や被害を防げないか、研究を長年行っていました。民間機による超音速飛行の可能性を目指したこの研究は、「Quiet Supersonic Technology」の計画名称から「(QueSST(クエスト)」と呼ばれており、その実験機として作られたのが、今回完成したX-59になります。

 X-59は、超音速飛行時の衝撃波発生を抑えるため、機首形状が極めて尖鋭なのが特徴です。そのため、コックピットの窓からは前方の視界がありません。パイロットは、機首に埋め込まれたカメラが捉えた映像をモニター越しに見ながら操縦します。なお、実証機としての目的に限定されているため、機体の規模は最小限にまとめられています。 巡航速度は高度1万6760m(5万5000フィート)でマッハ1.4、最大速度は高度1万8300m(6万フィート)でおよそマッハ1.6を想定しているそうです。 なお経費節約のため、いくつかの部材は実績ある既製品が使用されています。たとえば、主脚はF-16戦闘機、キャノピーと射出座席はT-38練習機の後席が流用されています。エンジンはF-18E/F戦闘攻撃機と同じF414エンジンが搭載されています。 機体の形状は、コンピューターによるシミュレーションと風洞実験のデータを基に設計され、NASAではマッハ1.4巡航時の地上での音圧レベルをおよそ75デシベルと予想しています。よく知られた超音速旅客機「コンコルド」が、およそ105デシベルであったことから、それと比べると格段に軽減されていることがわかります。

初飛行はいつ頃?

 X-59は今年(2023年)7月に工場を出たばかりで、年内は地上で各種システムの動作確認と強度試験が行われる予定です。NASAの計画では2024年に初飛行したのち、安全性と飛行性能の確認を引き続き行うとしています。これらはカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地に併設されたNASAのアームストロング飛行試験センターと、その周囲に設定された試験空域で行われます。 その後、2026年頃には試験空域を出て全米各地の上空を飛行します。その際には地上における音圧測定と同時に一般市民からの意見や感想も広く調査される計画です。 そして2027年には、最初の報告書が連邦航空局に提出される見込みです。NASAとしては、FAA(連邦航空局)を説得するために必要十分なデータを集め、航空法を改訂することで民間機によるアメリカ大陸上空の超音速飛行に門戸を開きたいとしています。

 実証試験の速度はマッハ1.4ですが、亜音速からマッハ1.4までの各種データを実測することで、それ以上の速度域における衝撃波の、より正確な計算モデルを確立することが可能であると説明しています。 X-59は、Xを冠した実験機としては初めて民間機が発着している各地の空港に出張する予定ですが、着陸時に使用するスポイラーやドラグシュート、テールフックなどを備えておらず、制動に使えるのはブレーキのみとか。そのため着陸滑走距離が長く、3000m以上の滑走路を持つ空港だけが経由地になる予定です。 アメリカでは、1979年から80年まで旧ブラニフ航空が、ブリティッシュ・エアウェイズならびにエールフランスと共同で、大西洋線のコンコルドをダラス・フォートワース空港まで運航していた時期がありました。 残念ながら、当時は地上への被害を避けるために、アメリカ上空は亜音速飛行でした。それから40年を経た今、NASAはアメリカ上空の超音速飛行を目指してクエスト計画を推し進めています。実証実験はこれから始まる段階ですが、その成果次第では世界の空旅が劇的に変わるかもしれません。

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