自動車の車体色に光沢感の少ない「マットカラー」の採用が近年増えています。ただ日本メーカーだけがあまり広がっていない状況だとか。その背景には何があるのでしょうか。
世界的トレンドにも?
高級車や輸入車を中心として、車体色に光沢感を抑えた「マットカラー」を導入するケースが増えています。
マットカラーは、もともと塗装部分の少ないバイクでは一般的なカラーとして設定されています。より大きなカタマリであるクルマのマットカラーは、実際に街で見かけると、ツヤのある車体色とは明らかに異質なため存在感を放ちます。メルセデス・ベンツやBMWなどでは、量産色として設定しているケースもあり、色も様々です。「マットカラーは日本以外の市場ではすでに定番となっています」。自動車の塗料メーカーとして、毎年「カラートレンド予測」を発表しているBASFジャパンのカラーデザイナー、松原千春さんは、2023年9月28日のカラートレンド説明会でこう説明しました。 松原さんは今年の自動車カラートレンドの特徴のひとつとして、「触感のある表面」のカラー表現がさらに進化していることを挙げました。説明会会場には、ツヤのあるカラーサンプルとともに、マットカラーのサンプルもいくつか用意されていました。 日本でも輸入車のマットカラーや、自分でラッピングや塗装をしたケースをよく見かけるようになったといいます。しかし国産車では、一部のスポーツカーなどで特別にマットカラーが用意された例はあるものの、ほとんど設定がありません。松原さんによると、「メーカーさんがあまりやりたがらない」のだそう。 マットカラーは日常の手入れが難しいとされています。というのも、マットカラーはベース色を塗ってから、光沢のあるクリア塗料の代わりに、ツヤ消しのクリアを塗ることで、細かな凹凸のあるザラザラした表面ができ、それが独特の存在感を放ちます。このため汚れが凹凸に堆積しやすいうえ、傷防止の観点から洗車もNG、磨きをかけるコンパウンドなどの使用も避けた方がよいとされているなど、通常のカラーとは勝手がかなり異なります。 BASFは今回、「伝統的な自動車の色を刷新する時期が来ている」とし、マットカラーや中間色のパステルカラーなど、従来の自動車では見られなかったような色を多く打ち出しています。その背景には、EVが普及する時代のなかで、特に若者はクルマに対する見方が変わっているそう。「これまで絶対に売れなかったような色のクルマが出てきている」といった市場の変化があるそうです。 メルセデス・ベンツの担当者に以前聞いたところ、「(マットカラーの)クルマを買われるのは、洗車も手洗いの方が多いですから、当然ご理解いただいているでしょう」と話しましたが、松原さんによると、日本メーカーの場合はエンドユーザーに迷惑をかけないようにする思いから消極的なのでは、ということでした。