驚愕の電車遅延対策「停車駅を臨時で通過します」なぜ許される!? 超強引な「定時到着」しないとヤバイ理由とは

電車の遅延を取り戻すため、停車予定だった駅を急遽「通過します」。日本ではあり得ないやり方ですが、イギリスではごく日常風景のようです。なぜそんなことが許されるのでしょうか。

日本ならあり得ないが

 電車の遅延を取り戻すため、停車予定だった駅を急遽、無視して通過します――。もしも、そんなことが発生したら、どうなるでしょうか? 日本だったら鉄道会社が謝罪会見ものの「大事件」ですが、実は英国ではよくあること。なぜそんな強引な遅延対策が許されているのでしょうか。そこには「鉄道発祥の地」ならではの深い事情が隠れていました。

 日本で例えるなら、飛行機に乗るため、成田空港行きの快速電車に乗ろうと駅に赴いたものの、列車のダイヤが乱れていて、なかなか来ない。飛行機に間に合うかと焦りが増すなか、ようやく空港行きがやってきたと安堵したのも束の間。無情にも駅に止まらず、ズバッと目の前を通過。「あの電車に乗るはずだったのに!」。駅員に抗議しても取り付く島もありません。 逆の場合もあります。通勤のため首都圏郊外の自宅最寄り駅から電車に乗り、都心の職場の最寄り駅で降りようと思っていたら、降りるはずの駅があっという間に車窓の彼方へ。「この駅で降りるはずだったのに!」と車掌に抗議しても、「電車が遅れているので」とけんもほろろ。運が良ければ次の駅で降りられますが、遅延状況によってはドンドン通過され、遠く離れた別の町の巨大ターミナル駅でようやく降ろしてもらえる――。 悪夢のような話ですが、英国では実際に体験することなのです。 例えば、英国南部に路線を持つサザンの、リトルハンプトン発ロンドン・ビクトリア行き急行列車。途中駅にイギリス2番目の規模のロンドン・ガトウィック空港駅があるため、乗客が多く利用します。 紹介する事例は2023年7月10日。鉄道路線に進入した不審者のために予定より「19分遅れ」でリトルハンプトン駅を発車した電車は、遅延を取り戻そうとグングンとスピードを上げ、次々に駅を通過しはじめます。本来停まる予定だった計8駅を無視し、空港にはなんと「定時到着」を果たしました。

「臨時通過」してでも定時運行しないといけない「ヤバイ線路事情」

 大胆な手法を取って遮二無二遅れを取り戻したのは、空の旅へと発つ乗客たちを遅延なく無事に送り届けるためだけではありません。遅延が終点近くで「取り返しのつかない事態」を招くおそれがある、深い事情があります。 先述の路線は「鉄道狂時代」と呼ばれた1840年代に敷設の、由緒ある路線です。現在のようにガトウィック空港へのアクセスや、各交通の集中する主要ターミナル駅ロンドン・ビクトリアを抱えることは想定しておらず、パンク状態になっているのです。約200年前にすでに複線化、19世紀末にどうにか複々線(線路4本)に拡張しましたが、線路脇はどこも建物が密集しているため、これ以上の拡大は望めません。 致命的なのが、ロンドン・ガトウィック空港~ロンドン・ビクトリア間のイースト・クロイドン駅周辺がボトルネックになっていること。実はイースト・クロイドン駅周辺の鉄道利用者は、国際列車ユーロスターが発着する欧州大陸への玄関口「キングス・クロス/セント・パンクラス駅」と、長距離列車のターミナル「ユーストン駅」の乗客数を足したよりも、遥かに多いのです。 サザンの親会社、ゴヴィア・テムズリンク・レールウェイの広報チャールズ・ヒンクリー氏は「英国で最も過密な運行スケジュールに喘いでいる区間だ」と指摘します。平日は一日あたり約1600本、平均で55秒に1本の列車が走り抜けるといい、ダイヤにほとんど隙間はありません。 英国は設備と運行を別会社が運営する「上下分離方式」が主流。同区間は国内路線の大半を管理する「ネットワーク・レイル社」が所有しており、各列車は同社から割り当てられた「タイムスロット」どおりに通過することとなっています。 それゆえ、遅延によって事前のタイムスロットどおりにここを通過できないと、次に走行可能なスロットをもらうチャンスはだいぶ先となり、大幅な遅延となってしまいます。さらに玉突き状態で次々に遅延が発生し、1本の電車の遅延で同路線を使用する全社のダイヤに影響していきかねません。 というわけで、19分の遅延を巻き返さないままイースト・クロイドン駅のボトルネックに突っ込んでしまった場合、直接・間接的に被害を受ける人は膨大な数になってしまいます。一方、飛ばした8駅に乗降できなかった利用者の数は、せいぜい約100から140名。この”少人数”を犠牲にすることで、ほかの多数の鉄道利用者の不利益を防ぐことができたのだ――と割り切っているわけです。

「通過します」驚きの発生状況 世間は

 似たような遅延回復策は英国全土でよく行われています。イギリス鉄道規制庁のリサ・オブライエン氏によると、2023年1~3月期だけで、3万3124件もの駅通過が発生したといいます。 こうした措置が取られる際、車内アナウンスで事前に通知することが多いのですが、それが乗客に手助けになるとも限りません。自分が降りる予定の駅が急遽通過予定になったとして、手前の駅で降りて後続の電車を待っても、後続電車が遅延回復でその駅を通過してしまうかもしれません。後続列車に期待した方が良いのか、それとも乗り越して引き返して来た方がいいのか。その肝心の情報が無いので、乗客は究極の選択を迫られます。 駅を飛ばすと言う遅延回復策は、事前策定されたアルゴリズムを参考にしつつ、従業員が状況を見極めて「瞬時に決断している」とネットワーク・レイル社の広報トレーシー・オブライエン氏は説明します。熟練した従業員の判断とは言え、どうしても偏りが発生することも。あまりにも色々な電車に通過され続け、すっかり「陸の孤島」になってしまっている駅が発生しないよう、ソフトウェアが補って監視します。 遅延に全乗客を等しく巻き込むのか、それとも、一部の乗客に不便を強いても大多数の乗客を優先するのか。英国内でも賛否両論あります。 それでも「外科的手術が施せない世界一古い鉄道網の”動脈瘤”を破裂させずにどうにか運行し続けるためには、仕方がない措置だ」と、今回取材した鉄道関係者は口を揃えます。難しい選択を迫られるのは乗客だけではないのかも知れません。

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