プロペラ機の「一強」時代を崩す? 巨人に挑む新興 異色スペックの対抗馬は勝負になるのか

40~50人クラスのターボプロップ旅客機市場で確固たる地位を築くATR社は、新型旅客機「EVO」を開発していますが、この牙城を崩そうとするのが、スタートアップが開発中の「メイブ01」です。既存メーカー有利とは限らないかもしれません。

ターボプロップの王「ATR」は最新機を…

 2023年現在、地方間路線向けである40~50人クラスのターボプロップ旅客機市場は、欧州ATR社の「ATR42-600」による一強体制ができつつあります。ATR社ではさらに、ATR42-600の改良型「EVO」の開発を勧めており、今後、環境負荷の低減が求められるこの市場において、さらに確固たる地位を築き上げようとしています。 しかし、このライバルになりうる新型旅客機の開発も進められています。オランダのスタートアップ企業メイブ・アエロスペースの「メイブ01」です。 同機は斬新な8基プロペラを搭載した電動旅客機として2029年の初飛行を目指していたものの、このたびプロペラ4基へと設計を一新し、平凡的なターボプロップ・エンジンのコミューター機と変わりないデザインとなりました。しかし、この「メイブ01」、将来のリージョナルプロペラ機における、ATRの牙城を崩すことができるかもしれません。

「EVO」と「メイブ01」は、根本的にコンセプトが異なるところがいくつか存在します。「メイブ01」の現在のイメージ図は4基のプロペラそれぞれに、ブレードと呼ばれる羽根が7枚描かれています。一方、ATR42-600EVOのプロペラは2基。羽根は8枚付きます。全電動運航でのCO2排出量ゼロをうたう「メイブ01」に対し、EVOは既存の機体より20%の燃費向上を目指し、SAF(持続可能な航空燃料)の使用を特徴としています。同機は既存のリージョナル・ジェット機に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量は50%以上削減され、SAFを100%使用すればCO2排出はほぼゼロになります。「メイブ01」と、EVOのベースとなるATR42-600の機体サイズや性能を比べると、胴体幅は「メイブ01」が2.8m、ATR42-600は最も広い部分で2.57mのため、今のままでは「メイブ01」にやや余裕があることになります。

「メイブ01」vsEVO、どっちがイイの?

 反面、航続距離は、「メイブ01」が460kmに対し、ATR42-600は3倍近い1345kmとされています。「メイブ01」の航続距離が短いのはバッテリーの駆動時間によるためと思われますが、メイブ・アエロスペースは「アムステルダムからロンドンまでの飛行は実現が可能」としていることから、「メイブ01」はまず欧州域内のコミューター機で浸透を狙っているのでしょう。 全電動である「メイブ01」の最大のネックと見られるのは充電時間ですが、35分間で済むとアピールしています。また、一般にプロペラの基数が少なければ、整備や点検にかかる時間と費用は少なくなりますが、未知の駆動源である反面100%のエコ運航の実現が期待されうる「電動」と、すでに実運航に活用されており、堅実な手段ではあるものの、排ガスを出すことには変わりないSAFを比較すると、どちらに分があるか、いまの時点で判断は難しいでしょう。

「メイブ01」とATR42-600EVOの売れ行きについては、ATR社はこれまでに100か国の200社に築いたネットワークがあります。後者のほうが、機材の更新へセールスをかけやすいというのは否めません。 しかし、2023年7月の世界的な猛暑に対し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「地球沸騰化の時代が到来した」と述べたように、環境問題への懸念はさらに強まっています。SAF混合の程度に依らず、CO2の排出を運航中に完全にゼロにできるという意味では、「メイブ01」の方が好意的に見られる可能性はあります。充電時間や蓄電容量が向上すれば、使い勝手も良くなるでしょう。「メイブ01」とATR42-600EVOの競争は、実用化の行方、その性能に加えて、環境問題の行方がカギを握っていると言えそうです。

externallink関連リンク

【画像】プロペラ8発! 初期デザインの「メイブ01」があまりに異形な件 カツオ節!? 驚愕形状の「未来のリージョナル旅客機」航空ショーで進展 プロペラなんと8発! 世界一セクシーな航空会社「フーターズ エア」の伝説 機内サービスも「らしさ」全開
externallinkコメント一覧

コメントを残す

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)