横田基地の上空は本当に“アメリカ”? 広大な「横田空域」を民間定期便が毎日横断できるワケ

関東甲信越の上空に広がるアメリカ空軍が管理する「横田空域」は、日本の航空管制が及ばない場所として知られます。だからといって飛行禁止なわけではありません。実は事前申請なしで中を横切ることもできるといいます。

関東地方の西半分を覆う米軍管理の「横田空域」

 2023年7月12日、東京都福生市にある在日米軍の横田基地にB-52「ストラトフォートレス」戦略爆撃機が突如として着陸し、航空ファンを驚かせました。こうしたことは、ここが事実上の“アメリカ”だからできることでもあります。 この基地が管理する横田進入管制空域、通称「横田空域」と呼ばれる広大な空域が、関東の西半分、一都六県の上空に設定されています。長年にわたって設けられているこの空域は、あたかもアメリカ軍が占領している禁止空域、もしくは制限空域のように捉えられることもありますが、本当にそうなのでしょうか。その実態を見てみましょう。

 そもそも横田空域の範囲は、関東甲信越にまたがっているものの、航空図を見るとその中は6分割されていることがわかります。南半分は羽田空港への離発着ルートを避けるように東へ向かって上限高度が低く設定されており、南東部分の上限高度は8000フィート(約2440m)です。上限高度は西に行くほど、そして北へ行くほど高くなっており、一番北側の部分は上限高度が2万3000フィート(約7000m)と設定されています。 目には見えませんが、大空に広がるこの範囲内が横田空域と呼ばれているもので、横田基地に常駐するアメリカ空軍第374空輸航空団が、「レーダーサービス」と呼ばれる空の交通情報を提供しています。 航空法では、横田空域の大部分は「クラスE」という種類の空域になっています。このクラスEとはどんな空域なのでしょうか。

横田空域は禁止・制限空域にあらず

 航空機の飛行方式は、視程が低くパイロットが目視で安全確認ができない時でも運航が可能な「計器飛行方式」と、十分な視程がありパイロットが目視で安全確認が可能な天候の場合に限って運航できる「有視界飛行方式」の2種類あります。 クラスE空域においては、計器飛行方式の場合ではクリアランスと呼ばれる事前の許可が必要ですが、有視界飛行方式ではクリアランスなしで飛行が可能な空域と定義されています。 つまり横田空域は、消防庁や警視庁のヘリコプター、各種事業用航空機など有視界飛行方式で飛んでいる航空機はアメリカ軍の許可なしで飛行が可能です。要は、横田空域は制限空域でも禁止空域でもありません。航空会社の定期便など計器飛行方式で飛行する航空機は事前の許可が必要ですが、これは横田空域に限った話ではなく、ほとんどの空域と同じ条件だといえるでしょう。

 安全確認に必要な視程が確保できない気象状態においては、決められた飛行コース上を、間隔を維持しながら飛行することで安全を確保します。そのため事前の調整と許可が必要になるのは計器飛行方式において当然の話です。 では、横田空域の中を航空会社の定期便は飛べないのでしょうか。実は、これについてもすでに運航されています。事前にアメリカ軍と調整することで運航している代表例を2つあげましょう。 1つは、東京の調布空港から発着する新中央航空の離島便です。調布空港から大島、新島、三宅島、神津島の四島を結ぶ路線は、2013年まで横田空域の中を有視界飛行方式で運航していました。そのため、有視界飛行条件を満たさない悪天候時は運航することができませんでした。 ただ、これでは就航率に大きな影響が出てしまいます。そこで、就航率を向上させるために東京都は在日米軍と協議を行い、新中央航空の便に限定して調布空港からの計器飛行方式による運航を実現しました。その結果、2013年6月18日より新中央航空の便は横田空域を計器飛行方式で飛行しています。

羽田空港発着で使っているかも?

 もう1つの例は2020年3月29日から運用が始まった新しい羽田空港への進入ルートです。このルートは南風時の午後3時から7時までに限定して適用されるものですが、横田空域を通過して都心上空経由で羽田空港のA滑走路(RWY16R)もしくはC滑走路(RWY16L)へ進入します。 このルートを設定するにあたっては、国土交通省と在日米軍との間で協議が行われ、横田空域の一部をクラスC空域とすることで対処することになりました。クラスC空域とは、計器飛行方式でも有視界飛行方式でも事前の許可がないと飛行ができない空域であることを意味しています。 こうして見てみると、横田空域といっても日本のほかの空域、自衛隊はもちろん国土交通省が管理する空域と何ら変わらないことがわかるでしょう。

 では、なぜ横田空域が設けられたのでしょうか。それは関東平野の南西の隅にあたる地域に多くの軍用飛行場が密集しているからです。南側から海上自衛隊厚木航空基地(日米共用)、陸上自衛隊立川駐屯地(立川飛行場)、航空自衛隊入間基地が配置されています。この中で立川駐屯地と在日米軍の横田基地は隣り合っているといっても良いほどです。 それぞれの飛行場への出発コースと進入コースは異なる高度で交差しています。そのため、一元的に広い空域をレーダーでモニターすることで、航空機どうしの間隔を確保して空の安全を維持しているのです。関東平野は人口密集地域でもあるので、アメリカ空軍では空中衝突を絶対に起こさないよう、横田空域のレーダーサービスを356日、24時間体制で提供しています。 実は、横田空域というエリアは在日米軍が「交通整理」をしているだけで、占有したり、日本機の飛行を制限したりしている空域ではないということが、これでわかるでしょう。

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