広島の苦境救う同点弾…エゼキエウが心技体かみ合った今季初得点「自分の力を出せた」

 リーグ戦3連敗、体調不良者続出、悪天候。あからさまな苦境だったが、チームの底力を見せて勝ち点1をつかんだ。サンフレッチェ広島は8日、明治安田生命J1リーグ第20節で鹿島アントラーズをホームに迎えて1-1で引き分けた。

 直近3試合で得点を奪えず3連敗と苦しんでいた広島。そこに追い討ちをかけるように、体調不良を訴える選手が相次ぎ、鹿島戦前日の全体練習は急きょ中止となった。試合ではキャプテンのDF佐々木翔、DF荒木隼人、MF川村拓夢ら主力がメンバーを外れ、さらにミヒャエル・スキッベ監督も不在。そんな憂慮を表すようにエディオンスタジアム広島は激しい大雨に見舞われた。

 難しい状況ではあったが、むしろ逆境に立ち向かう意志が光った。急きょ指揮をとった迫井深也ヘッドコーチは、「体調不良者が出ている中で選手と頭をそろえたのは、『これはビッグチャンスだ。このチャンスをどうにかつかもう』という話でスタートした」と前向きに選手たちを送り出した。

「今日は難局と思えるところを我々はビッグチャンスと捉えようと。後ろ髪をひかれることなくスーパーアグレッシブに戦っていこうと思った。大雨で大変だったが、私自身も吉田(練習場)で頑張っている選手たちを何とかイキイキさせたいと思いピッチへ送り出した」(迫井HC)

 3試合ぶりに先発出場したMFエゼキエウは、「失うものはない。自分はチャンスをつかまないといけない」と奮起していた。「難しい状況の中で、迫井さんが選手に自信をもたらすような声掛けをしてくれた」とコーチの言葉も力に変えた。

 ブラジル人アタッカーは昨季、ケガの影響でリーグ戦9試合出場1得点にとどまった。今季も途中出場が多い中で4アシストと結果は出しているが、肝心のゴールはチャンスを決めきれずに未だ0。個人としても苦しい時期が続いていた。

 そんな中、今季はメンタル面の向上にも力を入れている。メンタルケアのプロにもアドバイスを求め、「メンタルの部分をケアしたり、良くするように自分で勉強したりしている」という。活躍するには、心技体のバランスが欠かせない。「体だけ、クオリティだけあっても頭やメンタルの部分が一致しなかったらうまく自分が機能しない。でも今日はそういうところがプラスになって自分の力を出せた」と手応えを口にする。

 広島が1点を追う55分、鹿島DF関川郁万から最終ラインの裏にロングボールが入ると、FW鈴木優磨に深い位置へと抜け出される。そこにDF志知孝明が厳しく対応。その間に味方が戻って守備陣形を整えると、MF野津田岳人が相手のパスをカット。そのこぼれ球をFWナッシム・ベン・カリファが拾い、ダイレクトで野津田、MF東俊希とテンポよくパスをつなぐ。そして、再びボールを受けたベン・カリファが前を向いて自陣から最前線へスルーパスを送った。

 これを受けたエゼキエウは、「ナッシムから素晴らしいパスが来て、自分の特徴であるスピードを生かせた」と完全に抜け出してビッグチャンスを迎える。鮮やかなカウンターの最後は、前半にミドルシュートを止められていたGK早川友基との一対一。広島の期待を一身に背負った決定的なシーンで、14番の心は「冷静さが重要だった」と落ち着いていた。

「あと1人抜ければゴールを決められるっていうところまで、一番難しいことはチームがやってくれた。なので、あとは一対一で冷静さを保って決めるだけだった」

 チームメイトがつないだボールを右足でニアに沈めて同点のゴールネットを揺らした。チームとしてはリーグ戦4試合ぶりとなる待望の得点。エゼキエウにとっても今季初得点となった。「この時のために一生懸命練習しているので、練習の成果だと思う」と話し、「決められて幸せだった」と素直に喜んだ。

「やっと自分が決めることができた。今までの試合もチャンスがあった中で決めきれず、自分の良さを出せなかった試合が続いたけど、今日は自分のサッカーを見せられたし、自信につながった」

 広島は連敗を3で止めたものの、リーグ戦は4試合未勝利。体調不良者の復帰も不透明で困難は続く。それでも、苦しい状況でつかんだ勝ち点1が次につながるはずだ。エゼキエウは、「勝ててはいないけど、勝ちに等しい試合だったと個人的には思っている」と胸を張り、「今日の試合で少しでも自信をつかんで次の試合に臨みたい」と前を向いた。

取材・文=湊昂大

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