西部劇の雰囲気そのまま 全米屈指の人気SLがスゴイ 「ミカド」が走る“現役”路線72km

日本と同様、アメリカでも観光列車として高い人気を保つ蒸気機関車。なかでもナンバーワンといえる人気を持つのが、ロッキー山脈の中を走る「D&SNG」狭軌鉄道です。過去、その鉄道に乗った筆者が魅力を語ります。

一度も廃線にならずに営業続けるレアSL

 老若男女問わず、幅広い層に人気の蒸気機関車(SL)。日本と同様、アメリカでも蒸気機関車が走る保存鉄道は各地に存在しますが、なかでも高い人気を維持し続けているのがコロラド州の「デュランゴ&シルバートン狭軌鉄道」です。アメリカでは略称のD&SNG(Durango & Silverton Narrow Gauge)と呼ばれ親しまれています。

 この鉄道はコロラド州の南西部、ロッキー山脈の中にある小都市デュランゴと、かつて銀鉱山で栄えた町、その名もシルバートンを結ぶ延長72kmの鉄道です。この鉄道の最大の特徴は1882年の開業以来、一貫して営業運転を続けてきた点でしょう。 多くの保存鉄道は、元々営業していた鉄道が廃線に追い込まれ、運転を休止した後で保存鉄道として復活を果たすパターンが多いなか、D&SNGは営業運転を続けながら鉱山鉄道から観光鉄道への転換を行っています。 加えて、もう1つの特色は軌間914mm(3フィート)のナロー・ゲージと呼ばれる狭軌鉄道である点です。アメリカの鉄道は、ほぼ全区間で軌間1435mmの標準軌が採用されています。しかし、西部開拓時代はロッキー山脈を越える目的で、標準軌より急こう配と急曲線に適した914mm軌間が普及していました。 ニューメキシコ州を中心に路線網を広げていた当時の大手鉄道会社、リオ・グランデ・ウエスタン鉄道も長大な914mm軌間の路線を運行していたほか、アメリカ各地の森林鉄道でも914mm軌間が数多く採用されていたのです。加えてD&SNGは軌間と個性豊かな車両だけでなく、沿線の風景にも西部開拓時代の雰囲気を醸し出す部分が多いため、映画の撮影に使われるなどしてきました。 そういった点からD&SNGが根強い人気を保っている要因ともいえるでしょう。特に終点のシルバートンは、町全体が映画のワンシーンに使われるような光景を今でも維持しています。

D51と同じ!「ミカド」と呼ばれる軸配置

 列車の顔ともいえる蒸気機関車は、アメリカン・ロコモーティブ社の1923年製K-28型と1925年製K-36型、2種類合わせて8両が現役で動いています。ともに車輪配置は「2-8-2」と称されるモデル。これは先輪1軸(鉄輪2つ)、間の動輪4軸(鉄輪8つ)、そして従輪1軸(鉄輪2つ)という構成パターンのもので、1897年にアメリカのボールドウィン社が製作した日本向け機関車(旧日本鉄道の9700形機関車)に初めて採用されたことから、天皇にちなんで「ミカド」とも呼ばれています。 ちなみに、この「2-8-2」は日本で良く知られるD51形蒸気機関車にも採用された軸配置であり、日本人として親近感がわく人もいるかもしれません。

 これら蒸気機関車はアメリカ型狭軌鉄道でよく見られるアウトサイド・フレームと呼ばれる構造。台枠が動輪の外側にあるので外からは動輪のスポークは見えませんがロッドに連動してバランスウエイトがぐるぐる回る姿が印象的です。 なお近年、D&SNG鉄道では山火事対策として本線用ディーゼル機関車を導入しました。ディーゼル機関車が牽引する列車の運賃は蒸気運転の列車よりいくぶん安く設定されています。 列車は客車10両で組成されており、狭軌鉄道としては堂々とした編成です。列車によっては10両の客車に荷物車として貨車が一両加わった11両編成で運転される場合もあります。列車は全席指定の定員乗車制で、客車は4クラスが設定されています。 内訳は21歳以上の年齢制限がある貴賓車のような「プレジデンシャル・クラス」、ソファのような座席の「ファースト・クラス」、3列座席の「デラックス・クラス」、そして4列座席の「スタンダード・クラス」となっています。加えて、座席車とともに飲み物や軽食を販売する売店車も組み込まれています。

SLで片道3時間半のショートトリップ

 列車は、終点のシルバートンではデルタ線を使って方向転換を行い、デュランゴに戻ってきたら駅構内にあるU字線で方向転換を行う方式。これにより、編成の順序は常に同じ方向で運転される仕組みです。 運行ルートは海抜1980mのデュランゴから海抜2840mのシルバートンに向け登っていくかたちをとっています。デュランゴ出発は朝、そこから約3時間半かけてシルバートンへ向かうため、同駅への到着は正午ごろになります。着いた後は駅周辺で昼食をとり散策した後、シルバートンを出発して午後5時ごろデュランゴに戻る運転形態です。閑散期間は1日1往復。繁忙期間は1日2往復運転されますが、繁忙期は先行列車の後に後続列車が続くパターンで運転されます。

 同鉄道は人気があるため保存鉄道ながら通年運行が行われています。冬季は途中のカスケード・キャニオンまでの往復運転となります。路線全体の標高が高いので冬は雪景色、春は残雪と新緑の景色を楽しむことができますが、冬季はデンバー方面からデュランゴに向かうロッキー山脈越えのハイウェイが雪の影響で閉鎖になることがあるため、南側のニューメキシコ側から向かう方が無難でしょう。 新型コロナの感染拡大以前は、日本からデンバーへ直行便が飛んでいたため、デンバー空港からレンタカーでデュランゴへ向かうのが便利な行き方でした。2023年3月現在は、他の主要空港でアメリカ国内線へ乗り継いで飛行機でデュランゴ空港まで行くのが最も簡単な方法かもしれません。 新緑のロッキー山脈の中に西部開拓時代の鉄道風景を見に、出かけるのも楽しいかもしれません。

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