米艦「ズムウォルト」第2形態へ! 艦載砲をかなぐり捨て載せるは陸軍との共通装備…!?

特異な見た目で広く知られる、アメリカ海軍のズムウォルト級駆逐艦が、その目玉装備だったはずの艦載砲を下ろす改修を受ける予定です。代わりに搭載される装備は、目下陸軍で開発中とか。どうなってしまうのでしょうか。

改修が予定される異形の軍艦「ズムウォルト」

 通常、軍艦と言えば艦載砲やミサイル発射装置、レーダーや通信用のアンテナなど、あらゆるものがまるで船体から生えるように装備されています。しかし、2016(平成28)年に1番艦が就役したアメリカ海軍のズムウォルト級駆逐艦は、そのあたりがひと味違いました。

 同艦は、レーダーなどで探知され難くなるステルス性を高めるため、船体全面がほぼ平面で構成されています。まるで堤防のようなその形状に加え、2022年9月には1番艦「ズムウォルト」が神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地に初めて寄港したことでも注目を集めました。 その1番艦「ズムウォルト」が2023年後半より、早くも改修作業に入る予定です。単なる船体の整備ではなく、実はアメリカ海軍としては初めてとなる「極超音速ミサイルの運用能力」を付与するためのものというのです。そしてそれは、アメリカ海軍のこれからを支える重要な能力でもあります。「極超音速ミサイル」とは、マッハ5以上で飛翔するミサイルのことで、遠距離にいる敵を即座に攻撃することができるほか、比較的低い高度で軌道を変更しながら飛翔するため、迎撃も困難といいます。 ズムウォルト級では、船体前部に装備されている2門の艦載砲を撤去して、そこに極超音速ミサイルなどを装填することが可能な垂直発射装置(VLS)を新たに装備することとされています。

取り外されるのはかつての「目玉装備」

 改修により撤去される艦載砲は、かつてズムウォルト級の目玉装備ともいわれていたものでした。「155mm先進砲システム(AGS)」と呼ばれるこの艦載砲は、ステルス性を考慮して、射撃時以外は砲身を含めた砲全体が箱状のケース内に格納されています。ズムウォルト級には、このAGSを用いて洋上から陸地に対して砲撃を実施し、海兵隊などの上陸を掩護するという役割が与えられる予定でした。 ところが、このAGSから発射する砲弾が問題となりました。AGSでは、GPSによる精密誘導が可能で、かつロケット補助推進により射程100km以上をほこる「長射程対地攻撃砲弾(LRLAP)」を運用する予定でしたが、価格高騰により2016(平成28)年にその調達がキャンセルされてしまったのです。

 そこで、2017(平成29)年にアメリカ海軍はズムウォルト級を、沿岸海域で運用する艦艇から、対地、対艦攻撃能力を高めより沖合で運用する艦艇へと変更することを決定しました。そして、そのための大きな一歩となるのが、今回の極超音速ミサイルの装備なのです。 ズムウォルト級に装備されるのは「通常型即時攻撃(CPS)」と呼ばれるもので、ブースターにより発射された後、先端の弾頭が切り離され、これがまるでグライダーのように滑空しながら飛翔して数千km先の目標を迅速に攻撃するというものです。ちなみにこのCPSに用いられる弾頭には、アメリカ陸軍の極超音速ミサイルプログラムである「長射程極超音速兵器(LRHW)」で用いられるものと共通の「共通極超音速滑空体(C-HGB)」が装備されます。 アメリカ海軍によると、ズムウォルト級はこのCPSを3発搭載可能なVLSを4基、搭載可能とのことで、つまり合計12発のCPSを装備することになると見られています。

ズムウォルト級に極超音速ミサイルを装備するメリットとは

 CPSをズムウォルト級に装備するメリットとして、どのようなことが考えられるでしょうか。

 ひとつは、艦艇であるため移動が比較的自由であるという点です。アメリカ陸軍のLRHWは、ミサイルを収めた箱(キャニスター)を大型トラックで引っ張って移動する必要があるため、平坦な地形で、かつある程度、道路が整備されている場所にしか配備することができません。一方ズムウォルト級は、海さえつながっていればどこへでも移動して、そこからミサイルを発射することができるため、陸と海という違いはあれど運用に関する自由度は比較的、高いといえるでしょう。 もうひとつは、ズムウォルト級は高いステルス性を有しているため、敵から発見されにくいという点です。敵にしてみれば、ただでさえ発見しづらいステルス艦が移動しつつミサイルを発射してくるわけです。発射元を断とうにもその発見が困難であろうことは想像に易く、つまり厄介この上ない存在、というわけです。 アメリカ海軍は、2025年から1番艦「ズムウォルト」での極超音速ミサイル発射試験を実施するとしています。その見据える先には、台湾を念頭に対立関係が続く中国への対応があります。厳重に防護された中国軍の軍事施設を破壊する手段として、CPSはまさにうってつけといえます。

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