羽田空港「空の海上保安庁基地」の超精鋭たち「特殊救難隊」の訓練に密着 舞台は日本全国!

羽田空港の一角に設けられている海上保安庁の羽田航空基地。そこには海難救助のエキスパート「特殊救難隊」が常駐しています。今回、そこで行われた訓練に密着。ほかの基地にはないレア機なども見てきました。

誕生のきっかけは半世紀前に起きた大事件

 東京モノレールで羽田空港へ向かうとき、整備場駅手前で見える「海上保安庁」と書かれた巨大な格納庫。ここには、日本唯一といえる精鋭部隊が配置されています。その名は「特殊救難隊」、船舶の火災や座礁といった特殊海難に対応する海保のエリート部隊です。 今回、そこで特殊救難隊と関東地方の医療機関が参加する「洋上救急慣熟訓練」が行われたことから、普段なかなか見ることのできない海保の航空基地の内部を見てきました。

 海上保安庁の精鋭部隊、特殊救難隊が設立されるきっかけとなったのは、1974年11月に東京湾で発生したタンカーの衝突・炎上事故、いわゆる「第十雄洋丸事件」が契機でした。このとき、LPG(液化石油ガス)船「第十雄洋丸」と貨物船「パシフィック・アレス」が衝突、多くの犠牲者が出るとともに、東京湾内を漂流する火災船に手も足も出なかった教訓から、1975年10月に誕生しています。 とはいえ、特殊救難隊の任務は多岐にわたります。LNG(液化天然ガス)やLPGといった可燃物を積載した船で火災が発生した場合の対処だけでなく、毒物などの危険物が流出した状況での救助、転覆した船舶の内部からの救出、ヘリコプターからの降下・吊り上げ(ホイスト)救助といった、特殊なスキルが求められる海難事故の現場で任務に当たることが求められているそう。 ゆえに部隊規模も随時拡大してきており、2023年現在は、統括隊長2人と6個隊(1個隊6人)の計38人で構成。全員が潜水士の資格をもっているほか、各隊に救急救命士が配属されています。 指揮系統上は第三管区海上保安本部(横浜)の下に置かれていますが、特殊海難に特化した部隊であることから、管区に関係なく出動するとのこと。隊員たちは羽田空港内に置かれている羽田特殊救難基地を拠点に24時間体制で待機しています。

羽田航空基地には海保唯一の救難機も

 特殊救難隊員を現場へ運ぶのは、羽田航空基地の航空機です。同航空基地にはパイロット、整備士、通信士など約100人が所属。配備されている航空機は回転翼機(ヘリコプター)が2機、固定翼機(飛行機)が4機の計6機で、機種は前者がエアバスヘリコプターズ製EC225LP「スーパーピューマ」、後者がボンバルディアDHC-8 Q300とガルフストリームVで各2機ずつとなっています。 特にEC225は海上保安庁が保有する機体の中でも一番大きい全天候型のヘリで、双発エンジンであることから飛行時の安全性が高いと評価されています。

 隊員に話を聞いたところ、出動時は乗員5名に加えて特殊救難隊員が2~3人乗り込むとのことで、洋上救急の場合はさらに医師や看護師を乗せて現場海域へと急行するそう。そういった状況に対応できるよう、機内には寝た状態の要救助者を2~3人ほど収容できるスペースが設けられています。 最新の電子機器とオートパイロットを採用し、巡航速度は260km/h前後、航続距離は950km程度と優秀な性能を持っているうえ、任務に応じてさまざまな装備品を搭載することができます。 機体側面に設置されているホイスト救助時に使用するケーブル巻き上げ装置は、万が一に備えて電動と油圧の2系統を用意。洋上救急の現場では、船舶から救助された患者への処置をヘリの機内で行う必要があることから、振動低減装置も備えられています。 近年の実績では、2022年8月にリベリア船籍の貨物船で、人命を救った事例があります。父島付近を航行中の同船から「乗組員1人が脳卒中の疑い」との118番通報を受けた海上保安庁は、医療機関の助言から至急、病院に搬送する必要があると判断し、洋上救急を発動。航空機に医師と特殊救難隊が搭乗し、八丈島から南東162km付近の海上で疾病者を機内へ収容しました。機内では容態観察や応急措置を行いつつ羽田航空基地に搬送し、ドクターカーへ引き継ぎ一命を取り留めています。 海上保安庁の羽田航空基地は、羽田空港の北西端に位置し、民間機が発着するターミナルビルなどと離れているため、活動内容もわかりにくいかもしれません。それでも、同航空基地に所属する機体は、空港や羽田イノベーションシティの足湯広場から眺めることができます。見かけた時は、日本の海の安全と人命を守っているんだなと、思いを寄せてみて下さい。

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