浄土真宗中興の祖と言われる蓮如が説いた「白骨の御文章」

「朝に紅顔有りて、夕べには白骨となれる身なり」という。朝は元気のよかった紅顔の少年が夕方には死んで骨になってしまうこともある。この世は無常で人間の一生は実に儚い。いつ終わるかわからない人生をいかに生きていけばよいのか。

■蓮如(れんにょ)とは

この句は浄土真宗中興の祖と言われる蓮如(れんにょ 1415〜1499)が信者に教えをわかりやすく伝えた「御文章」の中の一節で、「白骨の御文章」として知られている。出典は平安時代に編まれた「和漢朗詠集」から藤原義孝の詩句「朝に紅顔あって世路に誇れども、夕べに白骨となって郊原に朽ちぬ」から引用されたとされる。

蓮如は浄土真宗の宗祖・親鸞の子孫として、総本山といえる本願寺の第八世を継いだ。中興の祖と呼ばれているのは、当時の本願寺は総本山とは名ばかりで、親鸞の墓守のような存在に過ぎず零落の一途を辿っていた。本願寺は親鸞の子孫が継いでいるというだけのことで、親鸞の弟子の系統は他にも存在し、それらの勢力が本願寺を圧倒していたのである。本願寺は天台宗に庇護されているような形で、蓮如自身極貧の生活を強いられていた。その生活すら48歳でようやく手に入れたものである。それまでは部屋住みで寺の隅で細々と暮らしていたという。そんな蓮如だが、革命的な手法を編み出し、本願寺を現在に至る日本最大宗派にまで導いた(浄土真宗本願寺派/真宗大谷派)。その手法が御文(御文章)である。

■蓮如の「御文」

浄土真宗の聖典は親鸞の残した一連の著書・和讃などで「聖教」(しょうきょう)と呼ばれる。文字も読めない庶民には難解である。蓮如はこの教義を手紙の形で分かりやすく説いた「御文」(御文章)を中心に布教を行った。平易な内容で庶民にも理解できたことの意味は大きい。難解な聖教は各地で独自の読み違え、読み替えが行われ、独自の解釈も生まれる危険があった。僧侶に物品を寄進することで功徳を積めるという「施物頼み」などはその例である。

■白骨の御文

御文の中でも特に知られているのが「白骨の御文」と呼ばれる一文である。要約すると次のような内容になる。

世は無常であり人生は幻のようなものである。1万年生きた人間など聞いたことがない。朝は顔色が良く元気であったとしても、夕方に「無常の風」が吹けば、白骨となってしまうような身である。白骨となった我が身を家族が嘆き悲しんでもどうすることもできない。「無常の風」の前に人間はまったくの無力である。それならばどうすればよいのか。阿弥陀仏に頼ること、つまり念仏を申す以外にない。それも「風」が吹く前に死後について、「後生の一大事」目をそらさずひたすら念仏を申すべきである。

白骨の御文章を書いた頃、蓮如は2人目の妻・蓮祐を失い、五女の妙意、長女の如慶を相次いで亡くした。人間にはどうしようもないことがある。諸行無常。人生は気がつけば一瞬である。子供の頃はあれほど長かった時間も大人になるとあっという間である。そのゴールもまだまだ先のことなどと思っていても確実に近づいてくる。一休宗純は「門松は冥土の旅の一里塚」と言った。一年が過ぎればそれだけ死に近づくのに何がおめでたいものかというわけだ。蓮如と一休はウマが合ったらしく、2人の逸話が多く伝えられている。

臨終の時は遠い未来ではない。平均寿命まで生きたとしても80年。精々が100年である。なのに私たちはそのことに目を背け享楽に溺れて忘れようとする。その時になって嘆いても遅い。そもそも80年100年も生きる根拠が無い。今日、今すぐにでも「無常の風」が吹くかもしれない。

蓮如は「後生の一大事」、我々は死んだあとはどうなるのかを最大の問題とし、そこから目を背けずその時に備えて生きよと説いた。どうすればよいかというと、それは人間には及ばない問題であり、阿弥陀仏の宇宙を包む広大な慈悲にすがる以外にはない。「なんだ結局念仏か」と言う声もあるかもしれないが、この結論がなければ人生の無常を嘆く、単なる感傷的な詩歌で終わってしまう。信仰心の無い現代人からみれば阿弥陀仏にすがるのみだとする結論は、現実逃避に見えるかもしれない。しかし「後生の一大事」は人知の及ぶ次元ではない。それでも人間はこの問いからは逃げられず、答えが出ないとわかっていても問わざるをえない。宗教はその問いを引き受けてくれる絶対的な存在を提示する。

■真剣にかつ安心に生きる

蓮如はいつ訪れるかわからない「無常の風」を自覚し「後生の一大事」を心にかけておく。そしてその上で阿弥陀仏に帰依することで、人生を真剣に、かつ安心に生きられるのだという道を示した。現在でも浄土真宗の葬儀・法事ではよく「白骨の御文章」が読まれる。お経と同じものだと考えて聴いていない人もいるかもしれないが、内容は実に味わい深い。機会があれぱ触れてみてもらいたい。

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