「スパイ気球」が領空侵犯 日本はアメリカのように撃墜できるのか 現状を鑑みると…?

アメリカ中を騒がせた中国の「スパイ気球」は、F-22「ラプター」による撃墜という幕切れを迎えました。同様の事態を日本も迎える可能性はあるわけですが、果たしてアメリカのように、撃墜という対応はとれるのでしょうか。

アメリカは最強のステルス戦闘機で撃墜

 2023年2月6日(日)、アメリカ空軍のステルス戦闘機であるF-22「ラプター」が、空対空ミサイルにより無人気球を撃墜しました。その後、洋上に墜落した気球の残骸も回収が進められています。アメリカ政府の発表によると、この気球は中国の大規模な情報収集プログラム用のものであり、同様のものは、これまでに40か国以上の上空を飛行しているとの見方を明らかにしています。

 さらに、この気球に関する詳細な情報分析を行った結果、気球の下部に取り付けられていた機器には、通信装置やレーダーなどの電波情報を収集したり、位置情報を取得したりするためのアンテナなどが装着されていることも確認されたとしています。そのためアメリカ政府は、中国側の「気象観測用の民間気球」という主張を否定し、これを軍事的な偵察用気球だと考えているわけです。

もし日本で同じような事態が発生した場合どう対応する?

 今回の気球騒動は、日本でも大きな注目を集めました。特に日本で同様の事態が発生した場合の対応については、国会でも議論されるほど関心度の高い問題となっています。 まず、今回の気球は人間が搭乗して操縦しているわけではないという点で、ある意味では無人機と同じ扱いとなることが考えられます。そして日本政府は、大きさの大小を問わずいかなる無人機であっても、日本の領空(領海より陸地側の上空)に入ってきた時点でこれを領空侵犯とみなし、自衛隊法第84条に基づく「領空侵犯に対する措置(対領空侵犯措置)」として、航空自衛隊の戦闘機によって対応することとしています。つまり、気球に対しても同様の対応をとることが想定されますし、実際に浜田防衛大臣も国会で同様の見解を示しています。 なお航空自衛隊における対領空侵犯措置に際しての「一定の手順」は、以下のようなものです。 まず、無線などを通じて領空を侵犯している旨を警告し、領空外への退去もしくは近隣の空港などへの着陸を命じます。さらに、こうした警告や誘導に従わない場合には、場合により機体への命中を避ける形で機関砲を発射する「信号射撃」を行うことになります。 この「手順」が、対有人機を想定したものであることは明らかでしょう。果たして無人機に対しても同様の手順を踏むのかについては、先の浜田防衛大臣の見解には含まれませんでした。

現行法では撃墜は困難?

 そして、おそらく最も大きな問題となるのは、今回アメリカが実施した「撃墜」という手段を日本もとることができるのかどうかという点です。現在の自衛隊法および自衛隊内の規則によると、領空侵犯機に対して武器を使用できるケースは非常に限定されています。 これまでの国会答弁に基づくと、自衛隊機に対して領空侵犯機が実力をもって抵抗してくる場合(正当防衛)、および地上にいる人々の生命などに重大な危険が及びうる場合(緊急避難)には、武器の使用が認められているとされています。 ただし、これらは自衛隊法で明記されているわけではありません。前述した第84条にある「(領空侵犯機を)着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置をとることができる」という規定にいう「必要な措置」の一環として武器の使用が認められており、その内容を防衛大臣が定める自衛隊内部の規則によって規定されているのです。

 さて、領空侵犯機に対して武器を使用できるとして、では今回のような気球に対しても同様な措置をとることができるのかというと、現状では難しいと言わざるを得ません。 というのも、今回の気球は非武装であり、自衛隊機に対して実力を持って抵抗することもなければ、地上の人々に危害を加えるおそれもないためです。気球に何らかの不具合が生じ、人口密集地などへの墜落が予想される場合には、緊急避難として撃墜することが許されるかもしれませんが、単に上空を飛行している限りでは、撃墜することはできないと考えられます。

今後はどのような対応が望ましい?

 とはいえ、日本の領空を侵犯しつつ、悠々と情報収集をしている気球を放置することが望ましいとはとても思えません。実際に自民党や日本政府内でも、今後の気球に対する対応が検討されているとの報道もあります。 前述したように、現状では気球の撃墜は難しいわけですが、今後どのような対応の可能性が考えられるのでしょうか。

 ひとつ考えられる方策としては、自衛隊内部の規則を新たに改定し、偵察を目的とした無人気球の撃墜を可能とするようにすることです。そもそも現状、対領空侵犯措置での武器使用が厳しく抑制されているのは、武器使用はすなわち航空機の撃墜につながり、搭乗員の命が失われる可能性があることを踏まえて、軽率に武器を使用することを防ぐためと考えられています。よって、無人の気球であればその点を考慮する必要はありません。 また、対領空侵犯措置に関しては、基本的に国際法上認められる措置をとることとされています。冷戦時代の1960(昭和35)年にアメリカの高高度偵察機U-2をソ連が撃墜した事例など、自国の領空内で偵察飛行を行う軍用機を撃墜することは国際法上、許容されるとの見解も、学説や国家の実行として数多く見られます。 したがって、今回のような偵察を目的とする無人気球を撃墜することができるよう、新たに自衛隊内部の規則を改めることも選択肢のひとつではないかと、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。 中国をめぐる情勢が厳しくなっている中で、日本としてどのような対応を行うことになるのか、注目が集まります。

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