旅客機、なぜ「冬タイヤ」がないのか? 厳冬期どうやって飛んでるのか&厄介なポイントは

クルマだと夏はノーマル、冬はスタッドレスと季節でタイヤを使い分けることが一般的ですが、飛行機は1年を通して同じ型を使っています。なぜこのスタイルで運航されているのでしょうか。

自動車タイヤよりは表面滑らか?「飛行機タイヤ」

 2023年1月25日、成田空港で貨物専用機がスリップし横向きに停止するという事象が発生しました。この一因として、駐機場エリアの路面が凍結していた可能性もあると報じられています。 旅客機は雪の降る空港でも日常的に発着しますが、タイヤは年間で統一のモデルを使っています。さらに言えば、タイヤの溝は高速走行時の横ブレを抑える縦方向のみで、クルマと比較すると滑らかな形状をしています。なぜ旅客機は「冬タイヤ」を使用せずに運航が続けられているのでしょうか。

 結論からいうと、通常のケースでは、雪が降るなかで1タイプのタイヤで運航しても、十分な安全性が確保されているためとなります。 とある大手航空会社のパイロットによると、着陸時には車輪ブレーキ以外に、空気の流れをさまたげることで減速する「スポイラー」とエンジンの噴射方向を変える「リバーサー(逆噴射装置)」を用いて速度を落とすことから、タイヤを変えなくても問題はないそうです。また、クルマの何十倍もある飛行機の重量も、タイヤのグリップ力を高める助けになっているといいます。 また飛行機が高速走行する滑走路などが、まっすぐな場所であることも、タイヤの変更なく離着陸できる要因です。ちなみに、タイヤの縦溝に対し、滑走路は横に溝が刻まれており、これもブレを抑えるサポートをしています。 一方、誘導路などで横に曲がるときなどは、横滑りを起こす可能性も考えられるため、冬はほかの季節とくらべ速度を落として走るそう。先述のパイロットによると、積雪や凍結した路面状況下において、3ノット(約5.5km/h)以下で曲がる訓練を受けるそうです。

空港除雪体制も充実 実は飛行機の大敵着氷 どう対策?

 また空港側も、冬は除雪の体制を常に整えています。たとえば新千歳空港は、数種類の除雪車があわせて80台以上あり、24時間体制で滑走路、誘導路、駐機場などを除雪。これらの車両は原則、スタッドレスのタイヤを履いています。 なお滑走路はたとえ除雪が完了していても、路面の摩擦係数が所定の基準を満たさない場合や、横風が強い場合などは、離着陸することができません。この路面のチェックには、「滑走路摩擦計測車」という専用車両が用いられます。

 一方で、冬の飛行機にとってタイヤの横滑りより厄介で危険なのが、翼についた氷によって翼形状が変わってしまい、離陸に必要な空気の力を十分に得られないことです。実際、過去に積雪対応が不足していたことで、離陸に失敗した事故も発生しています。 これを避けるため、フライト直前の飛行機は、翼についた雪を除き新たな着氷を防ぐ防徐雪氷液が散布されます。なお、直前に行われるのは、防徐雪氷液の効果があるうちに上空に出るためです。 飛行機用防徐雪氷液「キルフロスト」を、稚内空港(北海道)など国内半数以上の空港に提供している関東化学工業によると、製品による差はあるものの、防徐雪氷液の効果が持続する時間は、もっとも厳しい条件(マイナス25度以下、雪のコンディションが水っぽい場合)で30分から40分、緩い条件(マイナス3度以上、雪が硬い場合)で2時間から2時間半だそうです。

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