海賊対処の海自護衛艦に海上保安官が同乗しているのはなぜ? 似て非なる両者の役割

ソマリア沖などの海賊対処に海自護衛艦が派遣されているのは周知のとおりですが、実はこれに海上保安庁の保安官も同乗しています。そこにはもちろん理由があり、それは海保と海自の違いや関係を示す好例でもありました。

海賊対処派遣の護衛艦に海上保安官も同乗

 2023年1月22日(日)、青森県にある海上自衛隊大湊基地から、アフリカのソマリア沖における海賊対処活動にあたるため、護衛艦「まきなみ」が出港します。2009(平成21)年から実施されている海賊対処活動は、今回で44回目となります。また、2022年2月以降に派遣された艦艇や航空機に関しては、海賊対処活動に加えて中東における情報収集活動も兼務することとされています。

 統合幕僚監部の報道発表によると、海賊対処活動にあたる「まきなみ」には、海上自衛官210名に加えて、海上保安官8名が同乗することとされています。なぜ、海上自衛隊の護衛艦に海上保安官が乗り込む必要があるのでしょうか。実はこれには重要な意味があるのです。

海賊に対処するために必要不可欠な海上保安官

 海賊対処にあたり、たとえば海賊を逮捕して取調べをしたりする場合には、「司法警察職員」という地位を有することが必要となります。「司法警察職員」とは、犯罪についての捜査や被疑者の逮捕などを行う権限を持つ職員のことで、一番分かりやすい例では警察官がこれにあたります(刑事訴訟法第189条)。そして、海上における犯罪に関しては、海の警察である海上保安庁の職員である海上保安官にもこの司法警察職員の地位が与えられています(海上保安庁法第31条)。 ところが自衛官は、一部の例外を除いてこの司法警察職員の地位を有していません。そこで、海賊行為をはたらいている海賊を逮捕して取調べを行うために、海上保安官が同乗しているというわけです。 それでは、なぜ海賊対処活動に海上保安庁の巡視船ではなく、わざわざ海上自衛隊の護衛艦を派遣しているのでしょうか。 これは、(1)海賊対処活動を実施するソマリア沖のアデン湾は日本から約1万2000kmも離れていること、(2)海賊はロケットランチャーなどの重火器で武装していること、(3)他国において海賊対処にあたっているのは軍艦であること、といったさまざまな理由から、海上保安庁の巡視船による対応が困難であるため、とされています。

海上保安庁と海上自衛隊の違いとは?

 ところで、このように自衛隊と海上保安庁が連携する形で活動している姿を見ると、両者の違いは一体どこにあるのかと疑問に思わないでしょうか。簡単に言うと、それは「警察」か「軍事組織(軍隊)」かの違いということになります。「警察」は、国内の秩序維持のほか、広く国家の安全、法、秩序を維持または回復することを任務としています。一方で「軍事組織(軍隊)」は、主に外国が自国に対して侵攻してきた場合にこれを撃退することを任務としています。 これをもとに、自衛隊と海上保安庁の組織の位置付けを見てみましょう。

 まず自衛隊に関しては、自衛隊法第3条に明記されているように、日本の平和と独立を守ることを主たる任務とし、必要に応じて公共の秩序の維持にあたるものとされています。つまり基本的には、日本へ攻め込んできた他国の軍隊を撃退するための組織で、これに加えて、警察や海上保安庁などが対処できない事態が発生した場合に、これを補完するため公共の秩序の維持に当たるというわけです。ソマリア沖における海賊対処活動は、まさにこの「補完」の好例です。

決して軍隊ではない海上保安庁だからこそ果たせる役割がある

 そして海上保安庁は、海上保安庁法第2条に明記されている通り、海上における犯罪の予防や鎮圧、犯人の捜査や逮捕、海難救助、海洋汚染への対応、航路標識の維持など、広く海上の安全や治安を維持することを任務としています。

 一方で、自衛隊とは異なり、基本的に日本へ攻め込んできた外国の軍隊と交戦する権限や能力は有していません。これは、海上保安庁法第25条において、「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定されている通りです。 軍隊ではなく、純粋な治安維持機関としての性格を持つ海上保安庁だからこそ、たとえば尖閣諸島における中国公船の領海侵入などに対しても柔軟に対応でき、事態のエスカレーション(悪化)を防ぐことができていると考えられています。自衛隊にはない独自の強みを活かすことで、海上保安庁は日本の安全を維持しているわけです。

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