うわっ…このT-72戦車もろくね!? 湾岸戦争で問題になった「モンキーモデル」ってナニ?

1991年1月17日は湾岸戦争の開戦日です。この戦争では地上軍の投入からわずか数日で決着がつきましたが、その原因のひとつとして、意図的に性能を落とした兵器であるモンキーモデルの存在が指摘されています。

イラク軍のT-72が湾岸戦争で弱かった原因は?

 1991年1月17日は、イラクにアメリカを中核とした多国籍軍が空爆を開始し、湾岸戦争が開戦された日です。この戦争では、地上軍の本格投入からわずか数日で多国籍軍の勝利が決定的となりました。

 その要因のひとつに、イラク軍の主力戦車であった旧ソ連製T-72が、多国籍軍の戦車に一方的に撃破されたからだという話があります。なぜ、そこまでT-72は弱かったのか、それはイラク軍の同戦車が旧ソ連のオリジナルよりも数段性能が劣る「モンキーモデル」であったからではという疑いです。 モンキーモデルとは、輸出向けの兵器に関して、供与国に応じて意図的にスペックダウンやデチューンした兵器のことを指す言葉で、広く知られるようになったのは、イギリスに亡命した元ソ連軍参謀本部情報総局(GRU)諜報員のウラジーミル・ボグダーノヴィチ・レズン氏がその存在を示唆したからでした。 ソ連自体は明言することはなかったものの、当時、北大西洋条約機構(NATO)に対抗していた東側陣営の軍事同盟ワルシャワ条約機構に入っている国の軍隊にはオリジナルモデルを、それ以外の国向けには、モンキーモデルを供給していたと噂されています。 なぜ、モンキーモデルを供給する必要があったかについてですが、鹵獲(ろかく)や離反などで、アメリカやイギリスといった西側諸国に自国の先端技術が流出するのを防ぎたいという狙いがあったといわれています。 そのモンキーモデルの代表格ともいえるのが前出のT-72でした。すでに湾岸戦争以前、1982年のイスラエルのレバノン侵攻において、イスラエルの主力戦車であるメルカバMk.1にシリア軍のT-72が多数撃破されているという事実があったものの、この時は当該車両がモンキーモデルかどうか、真偽は定かではありませんでした。 そこで、開戦に先駆け、エジプト軍が装備していたT-72をアメリカ軍がテストしたところ、主砲の有効射程が想定よりも短く、加えて防御力についてもオリジナルでは砲塔前面などに封入されていた複合装甲がなく、その部分は単なる鋼板だったということが明らかになりました。これによりモンキーモデルの存在がほぼ確定となったのです。

一方的に撃破されたのは性能以外にも原因あり

 当時イラクが保有する戦車の約20%がT-72で、精鋭部隊だった共和国防衛隊に集中配備されていました。このT-72はソ連から完成車を輸入したものと、部品のみ輸入し、イラクで組み立てる、いわゆるノックダウン生産したものの両方がありましたが、エジプトと同じアラブ世界の国であるということで、同様にモンキーモデルが配備されていたといわれています。そのため、当時、アメリカ軍の最新鋭主力戦車だったM1A1「エイブラムス」やイギリス軍の主力戦車「チャレンジャー1」に、ほぼ一方的に撃破されることになりました。

 ほかにも戦闘機のMiG-29などにも、意図的に性能を落としたモンキーモデルが存在するといわれており、こちらも、湾岸戦争での空戦で、多国籍軍戦闘機に歯が立たず、結果、イラク国内の防空体制がぜい弱化した一因になったという話もあります。 ただ、同戦争で大規模な戦車戦となった「73イースティングの戦い」では、共和国防衛隊のT-72戦車が、地形を利用し、車体を防御しながら待ち伏せする「ハルダウン」という戦法に失敗したことで、防御戦闘そのものが瓦解。その結果、一方的に撃破されたのではという指摘もあります。防弾用に構築する車体を守る防御壁が、準備が不十分で砂を固めただけの急ごしらえものだったため、砲弾が容易に貫通してしまったからです。 さらに、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻では、鋼鉄にセラミックやガラス繊維などを挟み込んで強度を高めた複合装甲を車体および砲塔前面に採用している、T-72の改良型、T-72B3Mもかなりの数が撃破されているとみられています。 この戦車はロシア軍が保有しているものなので、いうなればオリジナルであり、モンキーモデルであるはずがないでしょう。そうなると、たとえ防御力の高いオリジナルであったとしても、ウクライナ軍の巧妙な待ち伏せ攻撃の前に大きな損害を被ったと考えられることから、翻って湾岸戦争時のイラク軍の場合を鑑みても、モンキーモデルだから一方的に撃破されたという訳ではなく、戦術面でのまずさを加味する必要もあるかもしれません。

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