ソニー・オープン、個性が光った熱い優勝争い【舩越園子コラム】

今週のソニー・オープン・イン・ハワイ開幕前、米スポーツラインが発表した優勝者予想では、出場選手の中で世界ランキングが最も上位のトム・キム(14位)がトップに挙げられていた。

世界19位のイム・ソンジェが続き、ディフェンディング・チャンピオンの松山英樹はジョーダン・スピースとともに優勝予想の3位に並んでいた。

しかし、実際の優勝争いは、まるで異なる展開になった。いくらコンピューターが数字やデータを分析しても、弾き出し切れないものが、ゴルフにはある。

優勝者予想では「勝つことは、まずない」と位置付けられていた選手たちが上位に浮上し、熱い優勝争いを展開することは、PGAツアーではしばしば起こる。

ソニー・オープン3日目を終えたとき、リーダーボードの上段には多彩な顔ぶれが並び、単独首位のヘイデン・バックリーを筆頭に15名もの選手が初優勝を狙っていた。

そして最終日、バックリーは初優勝に迫る好プレーを続けていた。追撃をかけてきたキム・シウーに追い抜かれても盛り返す粘り強さも見せていた。だが、15番で短いパーパットを外したことが痛手となった。

バックリーから3打差で最終日を迎えたキムは「失うものは何もない」と自身に言い聞かせ、アグレッシブなプレーを続けていた。17番でチップイン・バーディーを奪うと、18番(パー5)ではフェアウエイバンカーから放ったセカンドショットでグリーンを捉え、鮮やかな2連続バーディで締め括って単独首位でホールアウト。

追う立場で上がり2ホールに挑んだバックリーは17番でも18番でもスコアを伸ばせず、2位に甘んじた。残念ながら初優勝はお預けとなったが、26歳の米国人選手、バックリーの名前と存在が広く認識されたことは間違いない。

テネシー州出身、ミズーリ大学ゴルフ部時代には東南アジアを訪ね、アジアの文化に感銘を受けたというバックリーは、プロ転向後、PGAツアー・カナダで1勝、コーン・フェリーツアーで1勝を挙げた後、2022年からPGAツアーで戦い始めた。

テークバック始動時の両手の動きに大きな特徴がある。幼いころ、祖父の家にレフティ用のプラスチック製のおもちゃのゴルフクラブがあり、それを振っていたバックリーは、最初は左打ちでスイングを覚え、のちに右打ちへ変更したそうだ。

父親は大学で野球部に所属していたが、ベンチ入りさせられたことで一念発起し、医大へ転向した強靭な意志の持ち主だそうだ。

そのDNAは息子にも感じられる。バックリーは目前だった初優勝を逃した直後から敗北を潔く認め、自身のプレーを冷静に振り返った。

「ここぞというタイミングで沈めるべき短いパットを沈めなければ勝てない。今日は、それができなかったが、それ以外は、いいゴルフができた。去年の全米オープンに出て、戦うために何が必要かを学んだことが僕の転機になった。この大会は、さらなる転機。今、僕は新たなスタートラインについたんだ」

「スタート」と言えば、通算4勝目を挙げたキムにも、キャリアをスタートしたころには、いろんなことが起こった。

まだPGAツアーへの直接の登竜門としてQスクール(予選会)が行なわれていた2012年、キムは17歳にしてその難関を突破したが、年齢制限によって正式メンバーになれず、18歳の誕生日を迎えるまでのほぼ半年間をノンメンバーとして戦った。

だが、そんな悔しい日々を味わったからこそ、黙々と戦う彼のプレースタイルが出来上がり、2017年のザ・プレーヤーズ選手権を含む3勝を挙げ、トッププレーヤーの仲間入りを果たすことができたのだ。

それでも、この日は「失うものは何もない」と謙虚な姿勢でバックリーを追いかけ、「ゴルフでは何だって起こりうる」と逆転の可能性を信じて攻め続けたそうだ。

そんなキムとバックリーの優勝争いは、手に汗握る熱い戦いだった。

昨年6月にLIVゴルフが創設されて以来、ダスティン・ジョンソン、ブライソン・デシャンボー、バッバ・ワトソンなど強い個性が光る選手たちが次々に移籍し、PGAツアー選手の顔ぶれは「悪くなった」、「さびしくなった」と言われている。

今、そう見えることは否定できない。しかし、今は「さびしい」としても、「隙あらば、この自分が」と意欲を燃やし、全速力で駆け上がってくる選手たちは後を絶たない。

そうできるだけの技術力と精神力、体力を備えているのが、PGAツアー選手というものだ。ベテランも若手も、誰もが「自分こそが」と信じて猛進する。そして、優勝争いの影には必ず「へー」というストーリーがある。

そんなPGAツアーならではの面白さを、今週も存分に楽しめたように思う。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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