現在FIFA(国際サッカー連盟)理事を務め、JFA(日本サッカー協会)の名誉会長でもある田嶋幸三氏が、FIFA会長選挙に立候補する意思を表明した。
JFAは5日理事会を実施。そこで田嶋氏からの立候補の意思表明がなされ、14名の理事の満場一致で支援の決議がなされた。これによりJFAはFIFA会長選において、田嶋氏の支援にまわることになる。
田嶋氏は「JFAの全面的な支援のもと、こういう発表ができることは本当にありがたいことですし、宮本(恒靖)会長には感謝したいと思います。(選挙に)勝つ、負けるではなく、日本サッカーが今まで築いてきた誠実、健全、高潔性をしっかりと世界に発信していかなければいけないと思うし、今こそFIFAが必要なのは、我々がずっと守ってきたこのことだと思っています。それをしっかりと世界にアピールするためにFIFA会長選に出馬する意思を決めました。どこからのサポートがあるといったことはまったくありません。ただ、一番心強いのは日本サッカー協会がしっかりとサポートしてくれている。それが一番うれしいですし、宮本会長とはまさにこういう流れをしっかりと共有してきたので、今日の決定については非常にありがたいと思っています」と同日のメディア対応で決意表明をした。
立候補の理由としては決意の中に出てきた誠実、健全、高潔性だ。FIFAは現在、ジャンニ・インファンティーノ氏が会長を務めている。だが今夏に開催されたFIFAワールドカップ2026ではアメリカ代表FWフォリラン・バログンへの退場処分の軽減問題や、ワールドカップ事業の子会社化および一部株式の売却がインファンティーノ会長の元で進められていたことに対してUEFA(欧州サッカー連盟)を中心に反発し、会長再選への否定的な意見も多く出ている状況となっている。
田嶋氏は7月末段階で株式売却計画への反対意思をFIFA理事の一員としてJFAを通じて表明するなどしていた。疑義などがある中でのFIFA会長選が目前となり、田嶋氏は「今のところインファンティーノ会長に対抗する方が見えないということ。自分はそういう中で選挙をしないで、彼がそのまま就くことが最も良くないことだと思っています。FIFAが本当に自浄作用があるのかということが試されていると思い、決断しました」と、立候補書類提出期限である11月18日が迫る中で、危機感を覚えたことが大きいことを理由に挙げた。
インファンティーノ会長には世界各国からワールドカップや、それにまつわる不審な出来事について質問が投げかけられている。田嶋氏も大きく次の2つの質問事項を投げている。
■バログンのレッドカードの執行猶予判断について
「バログンのレッドカードに対して1年間の執行猶予をしたこと。それがやはり間違った決断ではなかったのかということです。それについてFIFAは表明していません。あくまでも規律委員会があり、法律的な部分はアンタッチャブル、独立していると言っていますが、一般の方から見ればFIFAの決定なんです。我々がタッチしてはいけない、タッチできないことはわかりますが、あの判断、決断が本当に正しかったのかは、しっかりと伝えるべきではないかと質問をしました」
■大会主催国の義務を果たさせることができるのか
「もうすぐ女子クラブワールドカップがアメリカで行われます(2028年1月予定)。そして今年末にはFIFAコングレスで2031年の女子ワールドカップが(決まる)。今、アメリカしか出ていませんが(注:メキシコ、ジャマイカ、コスタリカ含む4カ国の共催で立候補中)、そのホストカントリーとしてのオブリゲーション、義務をちゃんと果たせるというサイン(確約)をもらっているのか否か。(今夏のワールドカップでの)イランのようなチームが行った時に、政治的なものが介入して、1日前しか入れないとか、アンフェアであったことの前提があり、次にやるときには確約をしっかりともらっているのか」
田嶋氏は「文章で返すということでしたが、まだもらえていない」と不満を見せ、「係争中のことが多くて答えられないことが僕には残念でした。特に11月18日が選挙に出るデッドラインになっているわけです。それまでにいろいろな質問に答えず、彼だけが残るということでは、フェアではないと思いました。それで自分は出ようという意思につながりました」と無投票当選になりかねない状況となっていることへの拒否反応も示している。
田嶋氏はJFAからのバックアップは取り付けたが、ここからは11月18日までに他国の4協会からサポート(支持)レターを獲得する必要がある。計5つのサポートレターを提出することで出馬が可能となる。一方で、今日正式にJFAからの協力を獲得できたため、現段階では他国の確約を取り付けているわけではない。さらに、AFC(アジアサッカー連盟)のシェイク・サルマン会長は当初、UEFAに同調する姿勢だったが、10月21日から23日に東京で開催されたAFC臨時総会の席でインファンティーノ会長支持へと翻意。田嶋氏にとっては同じアジア内から仲間を募ることは難しい状況ではある。
「選挙活動については、AFCはある程度シェイク・サルマンさんの下でインファンティーノさんを応援するということがあるかもしれません。それがどれくらいの締め付け(強制力)なのかはわかりませんが、アジアの方はいろいろと多く知り合いがいます。それから他の国に対してもしっかりと私のやりたいことは伝えていかなければいけないと思っています。具体的に今、どこをどう回るということはまだ発表できる段階ではありません」と述べるにとどめているが、「これからアジアやいろいろな国の人にお願いして、まず出馬するのに必要な票をもらわなければいけないのに、コソコソやっていても認められないと思っています。今日ここでオープンになったことで、いろいろお願いしやすくなると思っています」と、積極的に残り2週間程度動くつもりだ。
勝算については、「例えば『7:3で勝てるぞ』とか、そういうことで言えばまだ達してないとは思っています。まず手を挙げて、そこの場に乗ることの大切さ、そして岡田武史元JFA副会長もステートメントを出していましたが、日本はこういう気持ちでいるんだということを、宮本会長と一緒に外に対して発信できることは、僕はJFAにとっても良いと思いました。もちろん出るからには勝ちたいですが、勝つ、負けるよりももっと大切なことがあると思っています」とコメント。
もちろん、インファンティーノ会長に対抗する形で出馬して敗れたとなれば、その後への影響も懸念されるが、決議したこの日の理事会では「負けた場合の話は今日はしていない」(湯川和之JFA専務理事談)とのことだ。
田嶋氏は「しっかりとしたガバナンス、そしてフェアで公正なFIFAに戻るべきだと思っています。お金を稼ぐことが大事だとは僕も思っています。FIFAは『ビジネス』と言いませんが、特に(今大会は)大成功だったわけです。そのお金をしっかりと211の協会に配るということ。これもみんなで決めていくことです。誰のお金でもなく、みんなのお金であるのに、『2500万ドルずつ配られてハッピーだろうから、こっちはインファンティーノさんに』というのはガバナンス上おかしい(注)。もっと議論していくべきです。まず、僕は正しい線路に乗せて、そこに行くような形にしていくべきだと思っています」と、組織として正しい形に作り直すことが必要であると説いている。
(注):ワールドカップの成功を受け、2027年から4年間で211協会へ最高2500万ドルずつ分配される見込み
また、「日本代表チームや森保監督にしろ、女子にしろ、世代別にしろ、みんな世界一を目指すと公言してやっています。その中でフェアにしっかりと保たれた戦いが必要です。ピッチの外での戦いもしていく必要があるし、自分はそこに関わっていきたいと思っていました」と、日本サッカー界全体で世界に出ていくことの重要性も強調している。
FIFA会長選は2027年3月18日にモロッコで行われる第77回FIFA総会で実施。会長候補になるには出馬前の5年間のうち最低2年間で、サッカー界においての積極的な役割(FIFA、大陸連盟、加盟協会等における選手や役員としての活動など)を担っていたことと、審査委員会が実施する適格性審査に合格することが必要になる。なお、田嶋氏は2015年からFIFA理事を務めている。また、前述の通り、計5つのサッカー協会からのサポートレター提出が必要。協会側は複数候補者にサポートレターを出すことはできない。現時点で現職のインファンティーノ会長が出馬を表明済で、同会長に反対する立場をとるUEFAは立候補者擁立を検討していると報じられているが、複数の名前が挙がっては消え、という状況となっている。
取材・文=小松春生