間違った場所にナビされてしまう!? 軍用では当たり前の「GPS妨害」のテクノロジーと対抗手段

”視界良好”造船業界の次の一手

私たちの暮らしにも欠かせないGPSなどの衛星測位システム。しかし、その“弱さ”を狙う攻撃手段が軍事の世界では広く普及しています。

現代ではGPSに対する電子戦が高度化

 GPS(全地球測位システム)は現代社会を支える重要なシステムです。航空機の航法、船舶の運航、カーナビゲーション、スマートフォンの地図アプリに至るまで、その利用範囲は極めて広く、軍事の世界では、巡航ミサイルや誘導爆弾などの精密誘導兵器にも利用され、現代戦における重要な基盤となっています。

 だからこそ、そのGPSを無力化する電子戦もまた、高度化しています。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、GPS信号に対する妨害が広範に実施され、その脆弱性が改めて注目されました。精密誘導兵器がGPSに依存するほど、GPSを利用できなくすることには大きな軍事的価値が生まれます。

 GPSは衛星測位システムの代名詞的存在となっていますが、狭義には米軍が運用する「グローバルポジショニングシステム:GPS」を指します。またヨーロッパ諸国による「ガリレオ」、ロシアによる「グロナス」、中国の「北斗」等が存在します。

GPS信号の受信を妨げる「ジャミング」

 これらのシステムは、どのようにして自分の位置を知るのでしょうか。GPSは「ナブスター」衛星を利用しており、この衛星は約2万kmの高度を周回しながら電波を地上へ送り続けています。その信号には極めて正確な時刻情報と衛星の位置情報が含まれており、受信機は複数の衛星から信号を受け、それぞれの到達時間の差から自らの位置を計算し割り出すことができます。

 ここにGPSの弱点があります。約2万kmという長大な距離を伝わってきた衛星信号は、地上では非常に微弱になっています。一方、地上の妨害装置は衛星よりはるかに近い位置、場合によっては受信機から数kmで電波を放射できます。電波の強度は距離の二乗に反比例するため、妨害側は相対的に強力な電波を浴びせ、GPS信号をノイズの中へ埋没させることができるのです。

 これが「ジャミング」です。GPSの情報を「聞こえなくする」攻撃です。こうした脅威への回答の一つとして、次世代GPS衛星である「GPS III」があります。GPS IIIでは軍用信号の対妨害能力が強化され、その重要な要素として「スポットビーム」が用いられます。必要な地域へ電波を集中的に照射することで、広範囲へ均一に電波を送る方式よりも高い信号強度を確保し、妨害や欺瞞に対する耐性を高めます。従来のGPS衛星と比較して最大60倍の対妨害能力が得られるとしています。

偽の位置情報を送り込む「スプーフィング」

 GPSに対する脅威はジャミングだけではありません。もう一つ重要なものとして「スプーフィング」があります。スプーフィングは本物と同じGPS信号を発信し、受信機に誤った時刻情報から偽の位置を計算させます。

 ジャミングの場合、受信機はGPS信号を失ったことを認識しやすいですが、スプーフィングでは、受信機が「電波を正常に受信している」と判断したまま、誤った情報を採用する可能性があります。

 スプーフィングに対する対抗策としては、一貫性のない電波特性や測位データが不自然に変化したその差を検出し、その異常な情報を除外して測位する、受信した電波の到来方向を分析して妨害波が来る方向に対してアンテナの感度を落とす、といった手段があります。また軍事用途では、電波情報自体を暗号化するという手段もあります。ジャミングとの戦いが「信号強度の競争」だとすれば、スプーフィングとの戦いは「情報の真正性をめぐる競争」であると言えるでしょう。

 これらの妨害への対抗手段は完璧ではありません。そのためGPSを唯一の航法手段としないことも重要です。慣性航法、地形照合、天測航法、地磁気航法、電波航法など、他の航法情報と比較し、信号の真正性を多重にチェックすることで「GPSが死んだら全部終わり」という事態を避ける設計を組む必要があります。

 GPSに大幅に依存し、同時にGPS妨害が当たり前となった現在「GPSフリー航法」は軍民問わず様々な装置や状況において重要な課題となっています。