「山下はそんなに笑わなくていい」――櫻坂46の山下瞳月(21)が、16thシングル「愛MUST BE」(10月14日発売)のミュージックビデオで監督から受け取った指示だ。結婚前夜に花嫁が羽目を外す“ヘンナイト”を描いた華やかな世界で、彼女にだけ書かれていた一文だった。
9thシングル「自業自得」、10thシングル「I want tomorrow to come」で連続して表題曲のセンターを務め、グループの真ん中で戦い続けてきた21歳は今、一歩引いた場所からこの作品と向き合っている。前編ではミュージックビデオの撮影裏と「自分の気持ちを乗せすぎない」と語る表現の変化を聞いた。【インタビュー前編】
◆山下瞳月:「暗い感情に寄り添ってくれる」歌詞に惹かれて
― 今回の「愛MUST BE」について、初めて音源を聴いたとき、歌詞を読んだときの第一印象を教えてください。
【山下】前回のシングルの「Lonesome rabbit」が激しい感じの楽曲だったので、ゆったりとした曲調であることに、個人的には差を見せられるのが嬉しいと感じました。あとは歌がすごく重要な曲になりそうだなと思いながら聴いていました。
― この曲は「幸せなのに不安になる」という感情から始まり、「愛が愛を生む」という大きなテーマにたどり着く歌だと思います。一番心をつかまれたフレーズはどこですか。
【山下】2Aメロの「眠れない夜があっても君だけじゃないんだよ」という部分。秋元(康)先生は櫻坂46の歌詞の中で、いつも暗い感情に寄り添ってくださることが多くて、私はそういうところが好きです。このフレーズも、誰にでも当てはまるんじゃないかという、少し暗い部分にも共感してくれる歌詞で、そこが好きだなと思いました。
― 山下さん自身も、共感する部分は多いですか。
【山下】はい。眠れないことはよくあるのですが、家の中にいると狭いコミュニティに感じてしまうんです。でも窓の外を見ると街にはまだ明かりがついていて、自分は一人だけれど、世界的に見たら動いているなと思うと、規模は大きいですが安心感を覚えます。
― 今回の歌詞には「83億人」という壮大な表現も出てきます。来年にはアジアツアーも控え、言葉の異なる海外の方にもこの曲が届いていきますが、どのように受け取ってほしいですか。
【山下】イベントなどで、海外のBuddies(櫻坂46ファンの愛称)の方が日本語を勉強してくださっていることが多いです。日本語は日本人にとっても解釈が難しくて、奥が深い言語だと思います。だからこそ、この曲はストレートに伝わりやすい曲なんじゃないかなと思っていて。
いろいろな解釈を持たれる方もいると思いますが、日本語をたくさん勉強していただいた上で見たときに、一番最初に感じたものがそのまま伝わってほしいです。分かりやすい、ストレートな歌詞だと思うので、感じたままに受け取っていただけたらと一番に願っています。
◆山下瞳月:“ヘンナイト”の物語と、監督からの「そんなに笑わなくていい」
― これまで山下さんがセンターを務めた「静寂の暴力」や「自業自得」は、内側の痛みを表現するような楽曲が多かった一方で、今回は外に向かって祈るような曲だと感じました。表現のアプローチに違いはありますか。
【山下】どの曲でもそうなのですが、自分がセンターでパフォーマンスするとき以外は、極力、曲のイメージやセンターの質感に合わせたいと思っています。今回はミュージックビデオの設定がしっかり決まっていたので、そのコンセプトに寄せて表現しました。
― そのコンセプトについて、山下さんの言葉で聞かせていただけますか。
【山下】結婚前夜に花嫁が最後に羽目を外す“ヘンナイト”という儀式があるそうで、それが舞台になっています。谷口(愛季)が花嫁役で、私たちはその友人や親族にあたる役回り。監督の設定がとても分かりやすくて、それぞれにキャラクター設定もありました。
パーティーのような雰囲気の場面では「テンションを高く、笑顔で」と言われていたのですが、(加藤)ヒデジン監督は私に笑顔のイメージがないのか、「何歳の頃に戻りたいのか?」の頃と同じ感じで「山下はそんなに笑わなくていい」と書かれていて(笑)。
もちろん監督からの指示はありますが「自分が違うと思ったらやらなくてもいい」とも伝えてくださるので、頭には入れつつ、周りの楽しい雰囲気に合わせて少し控えめにしながら、楽しい感じで表現できればと思い撮影に臨みました。
― ミュージックビデオは谷口さんを中心に物語が進んでいきます。センターに立つ谷口さんを隣や後ろから見ていて、印象的だった瞬間はありましたか。
【山下】谷口は基本的に「こういう表情で」「こういうシーンだからこんな感じで」と言われると、すぐに表現しているイメージです。本人も「その方がやりやすい」と言っていて、それは私とは対照的なので、加入当初からずっと「すごいな」と思っていました。
「夏の近道」以来、久しぶりにミュージックビデオを一緒に撮影して、その姿勢が変わらないこと、常にプロフェッショナルとして仕事に向き合う姿勢がとても好きですし、本当にすごいなと感じました。
― 撮影現場の裏側で、出来上がった作品を見ているだけではわからないエピソードがあれば教えてください。
【山下】森田(ひかる)さんが机の上にのぼって移動するシーンがあるのですが、そこはカットを割らずに繋ぎで撮影していて、その場でポジションを決めたんです。通常、ミュージックビデオの撮影では事前に振り付けを入れて練習するんですけど、当日にその場でポジションが決まって振りを入れることも多くて。あのシーンもみんな当日に役割が決まって演じました。「当日に机の上でターンしてくださいと言われたら、私にはできないな、やっぱりすごいな」と思って見ていました。
その後、森田さんがトントントンと移動して最後に椅子に座るシーンがあるんですけど、あの椅子、別の角度から見ると的野(美青)と村山(美羽)と中嶋(優月)が自分たちで押していて。森田さんが来るタイミングと場所に合わせて、椅子をスライドさせるという動きを当日に調整してやっていました。スタッフさんやカメラマンさんの動きも合わせて、全員で時間をかけて作り上げたシーンです。映像になるといろいろな角度からお見せできないのですが「実はあの3人が椅子を動かしていたんだよ」ということを知ると、もう一度楽しめるシーンなんじゃないかなと思います。
◆山下瞳月:「自分の気持ちを乗せすぎない」2年で変わった表現論
― 山下さんのことを、ファンの方も含め「表現者」と呼ぶ方はとても多いです。表題曲センターの「自業自得」から「表現において成長した」と思う部分はありますか。
【山下】「自業自得」の頃、あるいはそれ以前もそうですが、自分の気持ちを乗せないと曲を表現できないんじゃないかと思っていました。自分の気持ちと歌詞がリンクしないときはうまく表現できず、手応えを感じられないこともあって。でも最近、2作前の「The growing up train」あたりからは、自分の気持ちを乗せすぎずに「この曲の主人公はなにを伝えたいのか」ということを優先するようになりました。それから過去の楽曲でもパフォーマンスが変わったと言われることが増えました。
― 2年前にインタビューさせていただいたとき「とにかく練習は人一倍しようと思っています」と話していたのが印象的でした。今も練習量は変わりませんか。
【山下】学生時代は「この踊り方をこのように踊る」という正解が決まっていたので、その形に寄せるための技術的な練習が必要でした。でも今はグループで活動しているので、協調性が大事な部分もあれば、個人の個性が見えないと見ている方が楽しめない部分もあると思うんです。だから全員で揃える部分以外は自分の個性を残した方がいいと考えていて、その良い塩梅を見つけるような練習をしています。
(後編へつづく)
【後編】新曲「愛MUST BE」で初めて表題曲のセンターに立つのは、同期の谷口愛季。かつて同じ場所に立った山下瞳月は、発表前に二人で散歩をしながら、ある言葉を本人に伝えていた。そして「自業自得」で初めて真ん中に立ったとき、隣にいた先輩・田村保乃の卒業。当時は気づけなかった優しさと、今だからわかる後悔を語る。
(modelpress編集部)
PHOTO:矢沢隆則
◆山下瞳月(やました・しづき)プロフィール
2005年1月22日生まれ、京都府出身。身長152cm。A型。愛称は「しーちゃん」。2023年に櫻坂46三期生として加入。9thシングル「自業自得」、10thシングル「I want tomorrow to come」で2作連続の表題曲センターを務めた。グループは2026年、女性グループ初となるMUFGスタジアム(新国立競技場)でのグループ誕生5周年記念ライブを開催し、14万人を動員。8月30日には全国ツアー「Sakurazaka46 ARENA TOUR 2026 -What's lonesome?-」を完走した。10月14日に16thシングル「愛MUST BE」をリリース、11月にはZOZOマリンスタジアムで6周年記念ライブを控える。