味方と思わせて大爆発!? ウクライナ軍が放った「トロイの木馬」旧式戦闘車両を罠にする意外な使い道

航空機産業 世界的な拡大続く

2026年9月、ウクライナ軍がロシア軍陣地に向け、旧式のBTR-60装甲車を自爆UGVとして突入させました。なぜロシア兵に怪しまれずに中枢まで入っていくことができたのか。「トロイの木馬」戦術の全貌と、旧式兵器の意外な活用法を解説します。

無人で敵陣へ突入! 旧式兵器の新たな使い道

 2026年9月下旬、ウクライナ軍は「ヴィヴァルディー作戦」と呼ばれる一連の反撃作戦において、旧式のBTR-60装輪装甲車を自爆UGV(Unmanned Ground Vehicle:無人地上車両)に改造して投入し、大戦果を挙げました。

 この作戦では、FPVドローンや電子戦が戦場を覆う一方で、これまで低調であった装甲戦闘車両も突破、輸送、火力支援などで積極的に投入されています。そうした一連の無人兵器のなかでも自爆UGVに改造されたBTR-60装輪装甲車があげた戦果は、「旧式兵器の有効利用」という観点から大きな注目を集めました。

 そもそもBTR-60は、1950年代にソ連で開発、量産された8輪駆動の水陸両用装甲兵員輸送車です。ソ連軍の機械化に大きく貢献した装甲車で、ソ連崩壊後に独立したウクライナ軍でも約200両を継承したと見られています。

 もっとも、その後のウクライナ軍では国産のBTR-4E「ブケファル」(アレクサンドロス大王の愛馬ブケファロスに由来)など、独自開発した新たな装輪装甲車の調達が進められた結果、最古参のBTR-60は急速に退役。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻が始まったときには、軍の装備としてはほぼ姿を消していました。

ブルガリアからの供与車体も改造して有効活用

 しかし、ウクライナ戦争の激化によって状況は変わります。兵器不足に悩んだウクライナ軍は、保管状態にあった様々な旧式軍用車を再生して戦場に投入しました。

 BTR-60も同様で、2024年には同車をベースに車体レイアウトを刷新した「ホルンジー」(軍旗手の意味)が、ウクライナ国防省から供給可能な装備として認可されました。これは330馬力ディーゼルエンジンへの換装や、後部乗降扉の増設、耐地雷構造を採用した大規模改良型です。

 また2023年7月下旬に入ると、ブルガリア議会が自国で余剰となっていた約100両のBTR-60系装甲車をウクライナに供与する決定を下します。こうしてブルガリアからウクライナへ引き渡された中古のBTR-60シリーズは、ウクライナの手で改修・修理され、2025年にはBTR-60Dとして第156機械化旅団などに配備されています。

 ただ、冒頭に記したヴィヴァルディー作戦に投入されたBTR-60はひと味違います。9月20日頃から本格化したと推測される、ロシア軍前線に対する突破攻勢作戦において、ウクライナ軍第3強襲旅団は遠隔操縦式の自爆UGVに改造したBTR-60を投入したのです。

 公開された映像を確認すると、少なくとも1両のBTR-60がノヴェ(Nove)のロシア軍陣地に到達して大爆発を起こしています。前出の第3強襲旅団の上級司令部であるウクライナ第3軍団は、この自爆UGVによってロシア軍の防御拠点と指揮通信ノードの破壊に成功したと発表しています。

 ちなみに、未確認情報ですが、破壊されたのはロシア軍のドローン運用拠点であり、この方面でのロシア軍の反撃能力が著しく低下したとも言われています。

なぜバレなかった? 敵陣に紛れ込んだ「トロイの木馬」

 ウクライナ戦争では、様々な自爆型ドローンやUGVが投入されてきました。当然、ロシア軍も警戒を厳重にしていたはずですが、なぜ今回のような大型装甲車の突入を許してしまったのでしょうか。

 最大の理由は、BTR-60がウクライナ軍以上に、ロシア軍サイドで広く使われていたという事実でしょう。

 開戦前、ロシア軍は約800両のBTR-60系車両を現役で運用していました。加えて、戦争が長期化し、一線級兵器の損耗が続くと、4000両以上あったとされるBTR-60ないしBTR-70系の予備保管車体が引っ張り出され、修理されて前線に随時、投入されるようになりました。その数は一説には3000両を超えたと推測されます。

 したがって、ロシア兵にとっては、混戦のさなかに自軍拠点に近づいてくるBTR-60は友軍車両、すなわち味方に映っていた可能性が極めて高いのです。結果、敵か味方か判断できないうちに、重要拠点の中核まで入り込まれてしまったとのではないでしょうか。

 実際、作戦を成功させたウクライナ第3軍団も、この戦果を「Trojan APCs」すなわち「トロイの装甲兵員輸送車」によるものと表現しています。「トロイの木馬」とは、ギリシャ軍が巨大な木馬の内部に兵士を潜ませ、敵の都市トロイへ持ち込ませることで、城門を内側から開いたというギリシャ神話の計略のことです。ここから転じて、敵に無害、あるいは味方と思わせて内部へ侵入する欺瞞(ぎまん)戦術の比喩などに使われます。

 このBTR-60改造の自爆UGVは、常設装備ではなく今回のヴィヴァルディー作戦に合わせて特別に用意された兵器と見られます。敵の心理的な隙を突き、旧式兵器を「斜め上」の用途で活用したこの恐るべき騙し討ち戦術は、情報戦や心理戦で優位に立つウクライナ軍の巧みな戦い方を象徴していると言えるでしょう。