だから「低速重視でゴテゴテ」なほどイイ 知られざる「農業用バイク」の系譜 じつはメガヒット車種のルーツ!?

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アメリカやオセアニア地域、南米などでは、農業・牧畜業などの現場で重宝されている専用バイクがあります。これら「アグリカルチャーバイク」のモデルは日本でも販売されたことがあります。

速さよりも低速重視の「農業バイク」

 日本において業務用バイクといえば、営業のアシや配達用などが思い浮かびますが、海外ではあるシーンで、必要不可欠といえるほど重宝されている専用バイクがあります。それが「農業バイク」こと、アグリカルチャーバイクです。

 国土が広大なアメリカやオセアニア地域、南米などの国々では、農業・牧畜業などの現場でアグリカルチャーバイクは不可欠な存在です。「アギバイク」「ファームバイク」などとも呼ばれています。

 主に農地や牧場の不整地、悪路などを走るため、エンジンは低速・トルク重視の設計になっています。一般的なスポーツモデルとは対極の設計思想を持つといえるでしょう。また、機関部に泥や土が侵入するのを防ぐため、フルカバーチェーンケースなどを付けることが多いのも特徴です。

 また、車体の前後には作業時に便利な大型キャリアを装備しているモデルや、不安定な場所でもバイクが倒れないよう、左右両側にスタンドを持つモデルも多数あります。さらには多様な場面で荒っぽく使われることを想定し、専用ガードを各部に装備していることも多く、その出で立ちは結果的にかなり独特です。

 一般的にバイクと言えば「疾走感のあるデザイン」がカッコ良いとされますが、アグリカルチャーバイクのスタイルは、まさにその真逆。全体のフォルムはどこかボテっとしていて、スポーツモデルのファンからすれば「ダサいバイク」に見えるかもしれません。

 しかし、アグリカルチャーバイク独特の装備や無骨なデザインに、一種の機能美のような魅力を感じるコアなファンも存在します。そのため、農業・牧畜業などに従事する本来のユーザー層以外からも注目を集めているモデルなのです。

いち早く着目したのはヤマハ!

 さて、そんなアグリカルチャーバイクの黎明期を支え、スタイルの確立に大きく貢献したメーカーがヤマハです。

 他社よりもひと足早くアグリカルチャーバイクに着目したヤマハは、1973年(1974年とも)発売の「AG100」を皮切りに、「AG175」(1974年)、「AG-YAMAHA」(1976年)と相次いで輸出向けのアグリカルチャーバイクをリリースしていきました。

 後にアグリカルチャーバイクの定番となる装備のうち、初期のモデルであるAG100やAG175に備えられたのはフルカバーチェーンケースやキャリアなどのみでしたが、AG-YAMAHAではエンジン部分に巨大なカバーが装備されるなど、試行錯誤の跡が垣間見えます。

 こういったブラッシュアップを経て、1983年にヨーロッパ向けに発売されたのが「AG200 EUROPE」です。アグリカルチャーバイクの典型的な装備はここで確立されたとも言え、本モデルは「定番」として絶大な支持を獲得。人気は今なお根強く、最新版となる2026年モデルもすでに発表されています。

 ちなみに、AG200は1985(昭和60)年に日本仕様も発売されましたが、国内ではアグリカルチャーバイクというより、トレールモデルとしてアピールしていました。しかし少々無理があったのか、日本ではさほどウケることなく、わずか数年で生産終了となっています。

スズキを代表する「2台のアグリカルチャーバイク」

 ヤマハがアグリカルチャーバイクの確立に試行錯誤していたのと同時期には、スズキからも海外向けのアグリカルチャーバイクが発売されています。それが1977年登場の「TF125」です。

 本モデルは「ハスラー125」をベースにした2ストローク車で、左右両側のサイドスタンド、大型キャリア、ヘッドライトやレバーのガード類などを備えた本格モデルでした。

 こちらも海外の農地、牧場における移動や作業に欠かせないバイクとして親しまれ、なんと発売から49年が経過した2026年現在も、当初の2ストロークエンジンのまま新車が販売されています。アグリカルチャーバイクの草分けとしてだけでなく、スズキが誇る超ロングセラーの小さな名車とも言える存在です。

 また、スズキのアグリカルチャーバイクを語るうえではもう1台、「DR200SEトロージャン」という重要なモデルがあります。これはヤマハAG200や、後述するカワサキ、ホンダの中型アグリカルチャーバイクの人気を受け、1996年に発売されたモデルです。

 ベースとなったのは、同時期に人気を博していた「ジェベル200」。アグリカルチャーバイクの定番装備はもちろん、低速・高負荷での農作業が続いても油温上昇を抑えるオイルクーラーも標準装備したほか、スプロケットもローギアードに適した設定とするなど、“低速特化型”のモデルとして支持されました。

 残念なことに、DR200SEトロージャンは2026年モデルを最後に生産終了となる予定ですが、こちらも約30年に渡るロングセラーとなっただけに、TF125と並ぶスズキのアグリカルチャーバイクの代表格と言えるでしょう。

コアな支持を集めるカワサキのモデル

 他方、スズキTF125が発売されてから4年後の1981年には、カワサキからもオーストラリア向けのアグリカルチャーバイク「KV175アギバイク」がデビューしました。

 このモデルは基本装備をきちんと押さえつつ、TF125よりも排気量が50cc大きい175ccの2ストロークエンジンを搭載、よりトルクフルでパワーのある走りを実現させていました。また、ギアを入れたままクラッチを固定できるレバーロック機能も採用。不整地走行などにおいても臨機応変に操れるモデルとして、1980年代後半に生産を終了するまで、根強く支持されました。

 カワサキ製アグリカルチャーバイクの系譜は、KV175アギバイク以降10年以上も途絶えました。しかし2000年ごろにはオーストラリアとニュージーランド向けに、「スーパーシェルパ」をベースにした排気量250ccの「ストックマン」というモデルが登場。他社の競合モデルよりもパワーを求める農ユーザーや、海外にも根強く存在する「カワサキ派」からコアな支持を得て、25年以上にわたって生産され続けるロングセラーとなりました。

 またストックマンは2022年にフルモデルチェンジしており、今度は「KLX230」ベースの230cc車になりました。それでもコアな人気は変わらず、今も現役マシンとして海外の広大な農地や牧場をトコトコ走り続けています。

ホンダが生んだ「完璧なアグリカルチャーバイク」

 そしてホンダはというと、近年大ヒット中の「CT125ハンターカブ」の先代でもある「CT110」が、実はかつてアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどでアグリカルチャーバイクとして人気を博した歴史を持っています。

 さらに前出のヤマハAG200 EUROPE発売の翌年、1984年にはCT110の兄弟モデルとなる排気量200ccのアグリカルチャーバイク「CT200 Auto AG」も発売しています。本モデルは定番装備のほか、クラッチレバーを廃しペダルを踏み込むだけでギアが変わる独特の機構を採用。この点ではライバルであるヤマハAG200の手動クラッチよりも扱いやすく、人気を博しました。

 ちなみにCT200 Auto AGは現役時代、CT110とともに日本国内でも逆輸入車として流通しました。そのため今もしばしば中古車市場で目にすることがあり、依然としてコアな支持を集めている1台です。

 ホンダ製アグリカルチャーバイクとして強いインパクトを与えたCT200 Auto AGは、1993年ごろに生産を終了。ここから約9年間、200ccクラスのホンダ製アグリカルチャーバイクは新モデル不在となりましたが、2002年には「CTX200ブッシュランダーAG」が新登場し、CT200 Auto AGの役目を継承しました。

 外観はモトクロッサー風でもあったCTX200ブッシュランダーAGですが、実際はクラッチロック機能や低いシート高、軽量ボディも相まって、CT200 Auto AGと同様に実用性の高いモデル。2017年の生産終了まで、海外の農場などで活躍しました。

 またCTX200ブッシュランダーAGの生産終了年には、新モデルの「XR190AG」もデビュー。排気量は190ccにダウンした一方、アグリカルチャーバイクで初のインジェクション車として注目を浴び、2019年には「オーストラリアで最も売れたアグリカルチャーバイク」となりました。XR190AGは2026年現在も新車の販売が続いており、依然として高い人気を得ています。

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 アグリカルチャーバイクは日本ではあまり馴染みのないジャンルである一方、海外では農業・牧畜業を営む人々にとって不可欠な存在であり、日本のバイクメーカー4社も、切磋琢磨を重ねながら市場を切り拓いてきました。その特徴は、筆者(松田義人:ライター・編集者)個人的には「バイクというより道具」と表現したくなるもので、同時にどれもユニークで愛らしいバイクだと感じています。

 日本向け仕様が設定されていたアグリカルチャーバイクは、かつてのホンダCT110やヤマハAG200くらいで、それ以外のモデルはほぼ海外専売です。しかし前述の通り、一部のモデルは逆輸入車として国内でも販売されているケースがあります。とはいえレアな車両なので、「アグリカルチャーバイクがどうしても欲しい」という方は、長期戦を覚悟のうえで探してみてください。