海上自衛隊の護衛艦をチリ海軍へ輸出する協議が報じられました。なぜチリは日本の中古艦を欲し、どのような艦が譲渡される可能性があるのでしょうか。
チリ海軍が直面するフリゲート不足
スペインの防衛専門サイト「Defensa.com」は2026年9月7日、南米のチリと日本の間で、海上自衛隊の中古護衛艦の移転(輸出)についての話し合いが行われていると報じました。なぜチリが中古艦を欲しているのでしょうか。
チリ海軍は2026年9月現在、「アルミランテ・ブランコ・エンカラダ」「アルミランテ・リベロス」「カピタン・プラット」「アルミランテ・ラトーレ」「アルミランテ・コクレーン」「アルミランテ・コンデル」「リンチ」「アルミランテ・ウィリアムズ」という名称のフリゲート8隻を保有しています。
8隻というフリゲートの保有数は、南米のライバルであるブラジル(10隻)には及びませんが、アルゼンチンと同数、ペルー(6隻)は上回っており、南米屈指の海軍国であると言っても差し支えないでしょう。
ただ、8隻のフリゲートのうち、最も新しい「アルミランテ・ブランコ・エンカラダ」と「アルミランテ・リベロス」は、オランダ海軍を退役したカレル・ドールマン級フリゲートを購入して再就役させたもので、両艦の艦齢は既に30年を超えており、その他の6隻も既に艦齢30年を超えています。
ブラジル海軍は新造フリゲートの建造を進めており、チリ海軍も新造フリゲートを欲しています。このため国内のタルカワノ造船所で共通船体フリゲートの建造を計画していますが、詳細設計、協力企業の選定、最終決定はまだ完了していません。
チリは特産品である銅の価格が安定していることから、南米諸国の中では経済的にも安定していましたが、近年は原油高などで経済成長が減速しており、フリゲートに限らず国防支出は思うにまかせなくなっています。前に述べた計画の遅延に加えて経済状況の悪化もあって、2030年代初頭を予定していた共通船体フリゲートの就役は大幅に遅れる見込みとなっています。
チリ海軍は今後もフリゲート8隻体制を維持したいと考えているようです。このため共通船体フリゲートの仕様が固まり、かつ経済が好転するまでの間、新造艦に比べて安価に入手できる諸外国海軍の中古艦を「つなぎ」として導入することを模索しており、その候補として海上自衛隊の護衛艦に白羽の矢が立ったというわけです。
海上自衛隊の斎藤聡統幕長は2026年9月8日に行われた記者会見で、中古護衛艦の移転(輸出)の協議が行われているかについての明言は避けました。
しかしながら、チリと日本は頻繁な海軍交流を続けており、またチリが太平洋地域の海軍間の信頼醸成をはかる西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)のオブザーバーから正式加盟国に昇格しています。このため韓国の新聞中央日報など複数のメディアは、近く海上自衛隊とチリ海軍の間で、中古護衛艦の輸出に向けた実務協議が開かれるのではないかと報じています。
白羽の矢が立つ可能性のある艦は?
中央日報によれば2026年9月9日の時点で輸出対象となる艦艇、隻数、改修パッケージ、ミサイル構成、訓練日程、譲渡時期などはまだ確定していないと報じていますが、実務者協議の対象となる護衛艦が、むらさめ型、たかなみ型、あきづき型の3タイプになるのではないかとも報じています。
現在12隻が運用されているむらさめ型が最も輸出しやすい艦艇であるのは確かですが、1番艦「むらさめ」は艦齢が30年、最も新しい12番艦の「ありあけ」ですら艦齢が間もなく24年に達しますので、長期間の「つなぎ」の任を果たせるのか、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は疑問です。
4隻が運用されているあきづき型はいずれも艦齢が15年未満で、「つなぎ」以上の役割を果たせるとも思いますが、FCS-3射撃指揮システムなど日本が独自開発した複雑な戦闘システムが採用されているため、輸出国の海軍が使いこなすのは難しいのではないかと思います。
また、あきづき型はイージス戦闘システムを搭載するミサイル護衛艦が弾道ミサイル防衛の任務に就く際、限定的とはいえ艦隊防空も行えますので、海上自衛隊もおいそれとは手放せないのではないかとも思います。
たかなみ型も艦齢20~23年と決して新しいフネではないのですが、対レーダーステルス性能に配慮した設計やミサイル垂直発射装置の採用など、現在のフリゲートの必須要件は備えています。5隻しか建造されなかったので、偶数隻が建造されたむらさめ型やあきづき型に比べて、他国への譲渡は容易なのではないかとも考えられます。
正直な話、地球の裏側に位置するペルーへの護衛艦の譲渡は、容易なことではありません。今のところ南米の大国で、中国やロシア製の大型水上戦闘艦を購入した国はありませんが、中国はチリやブラジルなどに、おそらくビジネスチャンスの拡大も狙って病院船「アーク・シルクロード」を寄港させていますし、おそらくロシアもウクライナ戦後には価格競争力を武器に、南米への艦艇の売り込みを図ってくると思われます。
アメリカにも余力はない
9月17日付のブラジルの新聞「ブラジル日報」は、アメリカのトランプ政権が、ロシアの脅威に直面するNATO(北大西洋条約機構)加盟国や中東・北アフリカ諸国への軍事支援を削り、その資金を中南米諸国へ振り向ける方針を固めたと報じています。
日本のメディアでも度々報じられていますが、アメリカには中南米諸国の防衛力拡張に向けた財政支援は行えるかもしれませんが、造船能力が低下していることから、チリをはじめとする中南米諸国が欲する水上戦闘艦を割譲するのは難しいと思われます。
防衛装備品の輸出は一般的に思われているより、輸出国と輸入国の結びつきを強いものにする傾向があります。
中国やロシアの機先を制して日本と密接な結びつきのある国を増やし、かつ中古護衛艦の割譲で同盟国であるアメリカに協力することは、日本の安全保障にとって有利に働くことは間違いありませんし、その意味において中古護衛艦のチリへの輸出は、真剣に検討されるべきことだと筆者は思います。