中国の旅客機C909に災害救援用の「指揮機」が登場。一見物々しいですが、その役割は軍用とは異なるようです。なぜ民間機で「空中指揮」を行うのでしょうか。
気さくに「緊急時用です」
中国の国産リージョナル旅客機C909(旧称ARJ21)に、新たなバリエーション「EMJ(Emergency Management Jet:緊急指揮機)」が加わりました。どのような機体なのでしょうか。
「EMJ」はその名称から、アメリカで「終末の日に飛ぶ」と呼ばれるボーイング747ジャンボジェットを改造したE-4国家「空中作戦センター」のような、物々しい機体を想像するかもしれません。しかし、開発したCOMAC(中国商用飛機有限公司)によると、その役割は緊急事態管理・災害救援用の民間機とのことです。
旅客機は、胴体の長さを変えて客席数を調整したり、燃料タンクを増やして航続距離を延ばしたりするほか、貨物機やビジネスジェットといった派生型を開発することで、生産数やセールスの拡大を図るのが一般的です。
後発の旅客機メーカーであるCOMACもこの手法に倣い、C909の貨物機やビジネスジェット化を進めています。これらに加え、消防消火機(FFJ)や医療サービス機(MSJ)といった特殊用途機も出現。
そしてさらに2026年7月、イギリスのファンボロー航空ショーで「指揮機EMJ」と胴体に描かれたC909の模型が展示されました。
展示ブースでは、C909EMJは他のモデルと共に「COMAC ファミリー」として並べられていました。消防消火機や医療機はその用途がすぐに想像できますが、「EMJ」は何を指揮するのでしょうか。ブースにいたCOMACの社員に尋ねると、「緊急時に使う指揮用です」と気さくな答えが返ってきました。その口ぶりからは、アメリカのE-4国家空中作戦センターとは役割が全く異なるようです。
COMAC社員の説明によると、C909EMJは軍用機ではありません。大規模災害が発生した際に、担当する公的機関の職員らを乗せて現地へ向かい、他の関係機関と連携しながら被害状況の把握や救助活動の調整(マネージメント)を“陣頭指揮”するための機体だということです。
社員は「既に1、2機がつくられて使われている」と話していましたが、指揮系統でどの程度の通信手段が確保されているのか、どのような指揮権限を持つ担当者が搭乗するのかといった詳細までは「この場では分からない」とのことでした。
ではその具体的な仕様は、どのようなものなのでしょうか。
広大な国土ならではの「特殊機」
中国国内の報道によれば、EMJの機内は3つの区画に分かれているとされています。
機体前方はファーストクラス並みの座席が設けられた幹部用エリア、中央は情報収集や調整連絡を行う部屋、そして後方は各担当者が控えるエリアです。長時間の作業でも疲れないよう、後方の座席も通常のC909より横幅が広い仕様になっているといいます。
COMACが消防機、医療機、そして今回の指揮機をトリオのように開発した背景には、中国が世界第4位という広大な面積を持つ国土事情があります。
特に、都市部から遠く離れ、交通・通信インフラが十分に発達していない内陸部などで大規模な災害が起きると、被害の全容把握や救助・支援チームの派遣に時間がかかってしまいます。そこで、いち早く“前線”へ向かい、現状を把握するための指揮機が、医療機などと共に必要になると考えられたのです。
EMJのような特殊用途機の生産数は、COMAC社員が話したように1、2機と多くはありません。しかし、こうした新たな用途をリサーチし、対応する機体を生み出すことは、C909が様々な派生型に対応できる優れたプラットフォームであることを示しています。
C909はすでにインドネシアへの輸出に成功しています。COMACは今後、東南アジアを中心とした島しょ国や、災害発生時に被害状況の把握に時間がかかる地域を持つ国々へ、C909EMJの輸出を狙っていくのかもしれません。