日本郵船が日本製鉄系の海運企業の子会社化を発表。同社がもつ「世界最大級の船」も仲間に加わります。TOBを通じ、日本郵船は事業の安定化を図ります。
投資額1200億円超、船隊は1000隻の大台へ
日本製鉄の海運部門にルーツを持つNSユナイテッド海運(NSU海運)を、海運大手の日本郵船が子会社化します。日本郵船の狙いは何でしょうか。同社はこれにより、「世界最大級の船」も手中に収めることになります。
「NSU海運は極めてしっかりとした経営を行っている会社。今後は我々の仲間として、一緒にやっていくことになる」――2026年8月5日に開かれた日本郵船の決算会見で同社CFO(最高財務責任者)の伴野拓司専務はそう述べました。
NSU海運の子会社化に伴い、日本郵船グループの運航船隊は1000隻を超えることになります。不確実性が高いドライバルク(ばら積み船)事業で、重要顧客を基盤とした安定収益の確保を図っていきます。
このNSU海運に対するTOB(株式公開買い付け)は、日本郵船が推進する中期経営計画の事業戦略で重要な位置づけを占める大規模なM&A案件です。買付価格は1株当たり1万600円。2026年11月下旬から12月下旬をめどに、公開買い付けを開始します。
これとNSU海運による自社株TOBを組み合わせることで、日本郵船は出資比率を18.35%から83.33%に引き上げます。投資額は約1206億円となる見通しで、取引の完了は2027年4月中旬の予定です。
現在の筆頭株主でNSU海運株を33.36%保有している日本製鉄は、TOBの後も16.67%を出資し続けるため、NSU海運の株主の構成は日本郵船と日本製鉄の2社のみになります。このためTOBの完了後、NSU海運は非上場化されます。
「今回の取引を行う一番大きな理由は、スケールメリットだ」と伴野CFOは話します。
「特にケープサイズ(拡張前のパナマ運河を通航できないサイズの大型船。喜望峰経由に由来)になるが、日本郵船とNSU海運を合わせると、すごい大きなフリートを持つことになる。これを総合的に配船できるようになると、ドライバルク市場ではかなり大きな地位を確立することができる」
2026年3月末段階での日本郵船グループの運航船舶は912隻で、このうちバルカーは414隻。ここにNSU海運グループの211隻(外航130隻、内航81隻)が加わることになります。
仲間になる「世界最大級の船」とんでもなくデカい!
NSU海運は新和海運と日鉄海運が統合して2010年10月に設立されました。日本製鉄をはじめとした大手製鉄会社やエネルギー企業などの盤石な顧客基盤を持ち、高い割合で長期契約・専航船による安定収益を確保していることが大きな強みです。
特にブラジルの資源大手ヴァーレと長期輸送契約を結び、ブラジル―中国間で鉄鉱石輸送に投入されている超大型鉄鉱石船(VLOC)のヴァーレマックスは、その代表格と言えます。
ヴァーレマックスは大量輸送によるコスト削減を狙って開発された船型で、その船体規模は載貨重量約40万トン、全長約361m、全幅約65mと世界最大級です。その全長は、現在日本で一番高いビル(麻布台ヒルズ森JPタワー、約325m)の高さを超えます。
日本では2019年にジャパンマリンユナイテッド(JMU)有明事業所がNSU海運向けのヴァーレマックスバルカー「NSU CARAJAS」などを建造しましたが、これは日本で建造され、日本の海運会社が運航する船としては初のヴァーレマックスでした。
狙いは「ボラティリティ低下」と「内航事業」
一方で日本郵船はドライバルク輸送について、世界経済や資源・エネルギー政策、地政学リスクなどの影響を受けて運賃市況が大きく変動しやすいことを課題としてあげています。さらに環境規制の強化と荷主企業の脱炭素化ニーズ、新たな輸送需要の拡大と顕在化する人材不足など、事業環境も大きく変化しているのが現状です。
「ドライバルクは全体としてコンテナ船並みにボラティリティ(市況影響)の高い事業と認識している。この部分を安定収益が多いNSU海運を取り込むことで、ボラティリティを低下させたい」(伴野CFO)
もう一つはNSU海運グループが国内トップクラスの内航事業を手掛けていることがあげられます。ドライバルク貨物だけでなく、内航LNG(液化天然ガス)船やLNGバンカリング船の運航も手掛けており、環境に優しいクリーンエネルギーの供給ネットワークを支えています。
伴野CFOは「NSU海運が持つ内航事業は一番安定して収益に貢献していると理解している」と述べており、同社の内航事業に日本郵船グループの外航輸送や陸上輸送・倉庫管理などの物流機能を融合することで、鉄鋼・エネルギー・資源輸送といった分野でシナジーを発揮できることが期待されます。さらに日本郵船は内航事業を次世代技術の実証・実装や海技人材育成の基盤として活用することも視野に入れています。