イスラエルが有人戦闘機と無人機の開発を目指すと報じられました。過去、戦闘機開発で苦渋をなめた同国が再び有人機開発に乗り出す背景には何があるのでしょうか。大きな転換点となる可能性があります。
ジェット戦闘機を持たざる国が「国産」に至るまで
2026年7月30日、ブルームバーグとイスラエルの新聞「エルサレムポスト」がイスラエル政府関係者の話として、高い対レーダーステルス性能を持つ有人戦闘機と、有人戦闘機と行動を共にするCCA(協調戦闘機)の開発を、今後10年間の戦略目標としていると報じました。国産の新型戦闘機を掲げる背景には、イスラエルが“転換期”を迎えている可能性があります。
イスラエルは国家の成立過程の複雑さゆえ、建国から1950年代半ばまで最新鋭の防衛装備品、とりわけ航空機の入手に苦労していました。このため1956年に発生した第二次中東戦争では、欧米や旧ソ連、発足まもない日本の航空自衛隊ですらジェット戦闘機を主力としていたなか、イスラエルは第二次世界大戦中に活躍したドイツのBf109戦闘機をチェコスロバキア(当時)の航空機メーカーであるアヴィアがコピー生産したS-199や、同じく第二次世界大戦中にイギリスが開発したスーパーマリン「スピットファイア」などのレシプロ戦闘機を主力として使わざるを得ませんでした。
その後イスラエルは、イギリスとフランスが試みたスエズ運河領有計画(スエズ動乱)に協力する一方、当時対立していたエジプトが旧ソ連との関係を深めたことで、自由主義陣営諸国、とりわけフランスからの防衛装備品の入手が容易になります。イスラエル空軍(現・航空宇宙軍)は初の超音速ジェット戦闘機のダッソー「ミラージュIII」を入手するに至りました。
「いまだ現役」も!? イスラエル産ジェット戦闘機
フランスは1968年には政策を転換してイスラエルへの防衛装備品の輸出を渋るようになったものの、さらにイスラエルはフランスとスイスの企業から、非合法な手段を用いて入手した資料を基に、ミラージュIIIの簡易型「ミラージュ5」をベースとする初の国産ジェット戦闘機「ネシェル」を完成させます。
ネシェルは1973年に発生した第4次中東戦争で活躍したほか、アルゼンチン空軍にも採用され、1982年に発生したアルゼンチンとイギリスの間で戦われたフォークランド紛争でも使用されています。
また、フランスの政策転換後、イスラエルは兵器の導入先をアメリカに切り替えました。
アメリカから導入した防衛装備品の中には、F-4「ファントムII」が含まれていましたが、イスラエルはF-4に搭載されていた「J79」ターボジェットエンジンをネシェルに組み合わせて、後にカナード翼を追加した「クフィル」を開発します。
クフィルはレバノン紛争などで多数の旧ソ連製戦闘機を撃墜したほか、エクアドルや仮想敵機として輸出されており、コロンビアとスリランカでは現役機として使用されています。
「有人戦闘機ではない分野」で世界有数の地位 なぜまた有人機を?
ネシェルとクフィルで自信をつけたイスラエルは、1980年から「ラビ」の開発に乗り出します。ラビは三角形の主翼(デルタ翼)とカナード翼を組み合わせた、1980年代のデザイントレンドを取り入れた戦闘機で、試作機の製造にまでこぎつけました。しかし、開発の援助を行っていたアメリカが手を引いたことから、開発には至りませんでした。
なお、ラビの技術資料が中国に売却され、中国はその資料を基にデルタ翼とカナード翼を組み合わせた「J-10」戦闘機を開発したという噂もありますが、この噂はイスラエル、中国ともに否定しています。仮に技術が中国の手に渡っていたにしても、この時代はアメリカもヨーロッパ諸国も、旧ソ連と対立していた中国への技術供与に前向きであったため、イスラエルだけが批判される筋合いの話ではないと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
ラビの開発が放棄されて以降、イスラエルは有人戦闘機の開発から手を引き、UAS(無人航空機システム)や航空機に搭載される電子装置やソフトウェア、兵装などの開発に専念し、その分野では世界有数の地位を築いています。
「アメリカに頼れん」トレンドを反映か?
またイスラエル航空宇宙軍は、F-35A戦闘機に独自改良を加えたF-35I「アディール」をはじめ、世界的に見ても第一線の戦力を揃えており、CCAはともかく開発に莫大なコストを要する有人戦闘機の開発に乗り出す必要性はあまり高くないように思えます。
にもかかわらずイスラエルが有人戦闘機の開発を志向する最大の理由は、2026年2月に発生したイラン戦争における、アメリカとの思惑の違いが浮き彫りになったからなのではないかと思います。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はイランの現体制の打倒を標榜していますが、2026年秋に連邦議会の中間選挙を控えているアメリカのドナルド・トランプ大統領は、適当なところでイランから手を引きたい考えです。7月に行われた首脳会談では、思惑の違いがいっそう顕著になっています。
ただ、イスラエルは防衛装備品の多くをアメリカに依存しており、アメリカからの軍事整備に伴う財政支援は概ね年間38億ドルに達しています。このためイスラエルはアメリカに強く出られないのですが、ネタニヤフ首相はアメリカとの思惑の違いが顕在化して以降、アメリカへの軍事的な依存度を段階的に下げる意欲を見せています。
イスラエルが本当にアメリカへの軍事的な依存度、とりわけ財政的な依存度を下げられるのかは疑問ですが、その一方で技術的な自立はある程度可能だと思いますし、その動きが世界の軍事バランスにどのような影響を与えるのかを、注視していく必要はあると思います。