アメリカ陸軍が、アリゾナ州で巨大な砲システム「HATS」の実射試験を行いました。かつて計画中止となった射程1600kmの「戦略長距離砲」を極超音速兵器のプラットフォームとして転用する狙いは何でしょうか。
中止された計画から巨大砲を再利用
2026年7月30日、アメリカ陸軍は“巨大砲”の実射試験を行いました。場所は、さまざまな兵器・装備のテストの場として知られるアリゾナ州ユマ実験場です。
実射を行ったのは「戦略長距離砲(SLRC)」計画に基づく、「重砲兵試験システム(HATS)」という地上固定式の砲システムです。SLRCとは1000マイル(1600km)以上の射程により、戦線後方の指揮通信施設や防空システムなどを攻撃することを目指した車両移動式の大口径・超音速砲です。通常の野戦用榴弾砲の射程が数十kmであるのと比較してケタ違いの射程であり、その巨砲は第1次・第2次世界大戦時代の列車砲をほうふつとさせます。
しかし、SLRC計画は砲の機動性(運搬手段)やコストなどの問題から2022年度に中止となってしまいました。そもそもSLRC計画には、アメリカ・ロシア間の中距離核戦力全廃条約(INF条約)に基づく射程500~5500kmの地上発射ミサイル(核・通常弾頭問わず)の制限を回避する目的がありましたが、2019年に同条約が失効したことから、必要性に疑問符がついていました。
では、今回の実射試験は何のために行われたのでしょうか。それは極超音速ミサイルの弾頭テストのためです。極超音速兵器は、新たな戦略兵器として各国で開発が進んでいます。
HATSを用いることで、複雑で高額なロケットモーターを消費することなく、弾頭単体を極超音速に加速させ、信管の作動信頼性や破壊効果を検証することができます。陸軍では、これにより低コスト・高頻度でデータを収集し、極超音速兵器開発を加速させる考えです。